「手すり、横に付けることにしますね!」
そう言われたのは、引き渡し前の慌ただしい朝だった。
私は出勤の準備をしながらスマホで仕事の連絡をしていて、正直ほとんど話を聞いていなかった。
「はい、お願いします。」
適当にそう返事をした。
その時はまさか、その一言を後悔することになるなんて思ってもいなかった。
数週間後。
完成した新居を見に行った私は、その場で固まった。
玄関の前に設置された手すりが、打ち合わせで見ていたものと全然違ったのだ。
私が希望していたのは、シンプルでスタイリッシュなデザインだった。
ところが実際に付いていたのは、途中に何本も支柱があり、金具も丸見えの無骨な手すり。
新築の洗練された外観だけが浮いて見える。
思わず夫に聞いた。
「これ、本当にうち?」
夫も黙ったまま手すりを見つめていた。
外から見るたびに違和感がある。
せっかく何千万円もかけて建てた家なのに、玄関だけ後付け工事をしたみたいだった。
私はすぐ担当者に連絡した。
すると返ってきた言葉は予想外だった。
「お客様が了承されましたよね。」
一瞬、耳を疑った。
「いや、私は横に付けるって話を聞いただけで、商品変更なんて聞いてません。」
しかし担当者は強気だった。
「電話で了承いただいております。」
「安全基準上はこちらの方が適切です。」
「施工ミスではありません。」
まるで私がクレーマーであるかのような態度だった。
腹が立った。
だが感情的にならず、私は資料を確認した。
すると見積書の中に、打ち合わせで選んだ商品名が残っていた。
さらにメール履歴も見返した。
そこには担当者自身が送ってきた完成イメージ画像まで添付されている。
現在設置されているものとは明らかに別物だった。
私はすべて印刷した。
そして本社へ直接連絡した。
数日後。
営業担当、工事責任者、支店長が同席する話し合いが行われた。
最初は担当者も強気だった。
「認識の違いです。」
「説明不足はあったかもしれません。」
ところが私が見積書とメールを並べた瞬間、空気が変わった。
工事責任者が資料を見ながら言った。
「これは確かに別の商品ですね。」
支店長も黙り込んだ。
担当者だけが顔を真っ赤にしていた。
そして最終的な結論は、
施工会社負担で全撤去。
外壁補修も会社負担。
さらに希望していたデザインへの再施工。
私の負担はゼロだった。
数か月後。
新しい手すりが完成した。
玄関との一体感もあり、最初に思い描いていた通りの仕上がりだった。
担当者は異動になったと後から聞いた。
今回の件で学んだことがある。
家づくりで一番怖いのは施工ミスではない。
「どうせ客は諦めるだろう」
という油断だ。
私は確かに朝の忙しい時間に適当な返事をしてしまった。
それは反省している。
でも、だからといって違う商品を勝手に付けていい理由にはならない。
最後に玄関へ立った時、私は改めて思った。
家は一生の買い物だ。
だからこそ、泣き寝入りだけは絶対にしてはいけない。
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