離婚届に判を押した瞬間、手が少しだけ震えた。
やっと終わる。
そう思った。
長かった。
本当に、長かった。
向かい側の席には、元夫になる男が座っていた。
スーツの袖を雑にまくって、いかにも退屈そうな顔をしている。
こちらを見ても、申し訳なさなんて一ミリもない。
むしろ少し勝った気でいるような顔だった。
書類の確認が終わるのを待つあいだ、彼は鼻で笑うように言った。
「で、専業主婦のお前が、これからどうやって生きてくんだよ?」
私はその瞬間、怒るより先に、少しだけ笑いそうになった。
ああ、この人は何も知らないんだな、と思ったからだ。
財産分与も、慰謝料も、私は放棄した。
その紙を見た彼は、きっと思ったのだろう。
こいつは何も持っていない。
娘を抱えて、これから困るのはお前のほうだ、と。
哀れな女だとでも思ったのかもしれない。
でも、違う。
哀れだったのは、ずっと現実を見ていなかったほうだ。
思い返せば、全部が始まったのは三年前だった。
私が妊娠中だったあの頃。
体調は不安定で、些細なことでも泣きたくなった。
お腹の子を守ることだけで精一杯だった時期に、彼は平気で裏切った。
女の影が見え始めたのも、その頃だった。
最初は気のせいだと思いたかった。
帰りが遅い。
スマホを裏返して置く。
急に香水の匂いが変わる。
問い詰めれば逆ギレ。
そして、暴力まで始まった。
一度始まると、あとは早かった。
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