「“ママは悪くない。謝れ”って、後ろから聞こえた。」
一瞬、誰の声か分からなかった。
さっきまで旦那と言い合いしてて、
普段泣かない私が、思わず泣いていた。
言い返したかったのに、
うまく言葉が出てこなかった。
その時、ドアが開いた。
そして——
誰かが私を抱きしめた。
その瞬間、全部どうでもよくなった。
ああ、この子がいればいい。
そう思ってしまった。
……本当は、ここで止まるべきだった。
でも私は、そのあと。
母親として、一番やってはいけないことをした。
私は、この子を——
“盾”にした。
旦那が怒鳴るたびに、
無意識に息子の部屋を気にするようになった。
「出てくるかな」
そう思ってしまう自分がいた。
そして実際に、息子は出てくる。
あの日と同じように。
迷いなく前に立って、
旦那を止める。
「やめろって」
その一言で、空気が変わる。
旦那は黙る。
私はその後ろで、何も言わない。
何もしない。
ただ守られているだけ。
――楽だった。
怖い思いをしなくていい。
自分で戦わなくていい。
この子が前に立ってくれる。
いつの間にか、それが当たり前になっていた。
ある日、また同じことが起きた。
旦那が酒を飲んで、声を荒げる。
私は何も言わなかった。
ただ、待っていた。
息子が出てくるのを。
そして、ドアが開いた。
息子が出てきた。
でも——
その日は違った。
私の方を見た。
そして、少しだけ困った顔をした。
そのまま旦那を止めたあと、
小さく言った。
「ママさ……」
一瞬で、空気が止まった。
「それ、俺にやらせるの普通にしないで」
頭が真っ白になった。
何も言えなかった。
全部、見抜かれていた。
私は守られていたんじゃない。
この子を前に立たせて、
自分は後ろに隠れていただけだった。
怖いことから逃げて、
この子に押し付けていた。
「私、最低だ……」
その言葉が、自然に出た。
涙が止まらなかった。
息子は責めなかった。
ただ、静かに言った。
「ママはママでいてよ」
その一言で、全部崩れた。
私は母親だったはずなのに。
守る側だったはずなのに。
いつの間にか、
守られることに甘えていた。
そこからは逃げなかった。
旦那と向き合った。
怖かったけど、自分の言葉で話した。
離婚も、自分で決めた。
もちろん、息子はそばにいた。
でも、前に立たせることはしなかった。
これは、私の問題だから。
全部終わったあと、思った。
あのままだったら、
私はずっとこの子に頼って、
この子を消耗させていたと思う。
守ってくれた優しさを、
利用していた。
本当に、最低だった。
でも——
あの一言があったから、
戻ることができた。
これって、
母親として失格だったのか、
それとも、やっと気づけただけなのか。
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