「1階の天井から、いきなりビスが飛び出してきた。」
最初に気づいたのは長女だった。
「これ何?」って指差されて見た瞬間、背筋がゾッとした。
普通に生活している場所の真上から、金属が突き出ている。
位置的にも高さ的にも、もし頭に当たってたら普通に危ない。
急いで脚立を持ってきて確認した。
しっかり天井を突き破っている。
しかも、かなりの長さ。
——これ、絶対上からだろ。
すぐに2階を確認しに行った。
床は一見、何ともない。
でも、この角度と位置。
どう考えても上の部屋のどこかから貫通してきている。
そのまま上の部屋の前まで行って、インターホンを押した。
……出ない。
もう一回。
出ない。
三回目。
四回目。
五回目。
ようやく、ドアが少しだけ開いた。
中から顔を出したのは、無表情の男だった。
私はすぐに状況を説明した。
「すみません、下の階なんですが、天井からビスが出てきていて——」
最後まで言い切る前に、返ってきたのは一言。
「うち関係ないんで」
……は?
思わず聞き返しそうになった。
でも、位置的にも明らかにこの部屋の真下。
「一度、中を確認させてもらえませんか?」
そう言うと、即答だった。
「無理です」
食い気味で返された。
「いや、でもこのままだと危ないので——」
「だから関係ないって言ってるでしょ」
完全に遮られた。
その態度に、正直一気に温度が変わった。
それでも一応、冷静に続けた。
「せめて一度、状況だけ一緒に確認していただけませんか?」
そう言った瞬間。
ドアが、バンッと閉まった。
思ったより大きな音で、少しびっくりした。
その直後。
中から聞こえてきた。
「しつこいんだよ」
——ああ、そういうタイプか。
一瞬だけ、その場で立ち尽くした。
でも、すぐに考えを切り替えた。
これはもう、個人で話す相手じゃない。
そのままスマホを取り出して、管理会社に連絡した。
状況を説明して、写真も送った。
天井の状態、位置、ビスの長さ。
全部。
電話口の担当者も、少し驚いた様子だった。
「それは…危険な状態ですね」
「すぐ確認します」
その日のうちに、管理会社から連絡が来た。
「上階の住戸に連絡を取ります」
そして翌日。
管理会社の担当者が直接来た。
一緒に天井を確認して、すぐにこう言った。
「これは上からの施工で間違いないです」
そのまま、上の部屋にも向かった。
さすがに今回は、無視できなかったらしい。
すぐにドアが開いた。
昨日と同じ男だった。
でも、表情は少し違っていた。
管理会社が状況を説明すると、最初は否定していた。
「うちは何もしてません」
でも、すぐに確認が入った。
室内をチェック。
床の一部。
ネジ穴。
そして位置。
全部が一致していた。
しばらく沈黙が流れたあと、男は小さく言った。
「……自分で棚つけてて」
やっぱりか。
完全にDIYでやらかしていた。
しかも、下の階まで貫通するレベル。
管理会社からは、その場で注意と指導。
さらに修繕の話まで進んだ。
最初にあれだけ「関係ない」と言い切っていた人が、
最後は何も言えなくなっていた。
あの時ドアを閉めた勢いは、もうどこにもなかった。
結局、天井の修理はすぐに手配された。
費用も、当然ながら上の住人負担。
数日後には、元通りになった。
私は修理後の天井を見ながら、ふと思った。
最初にちゃんと対応してくれていれば、
ここまで大ごとにならなかったのに。
無視して、押し切れると思ったのかもしれない。
でも、そういう問題じゃなかった。
安全の話だ。
私はスマホをポケットにしまいながら、小さく呟いた。
「無視して済む話じゃなかったよね」
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