その日も、いつも通りだった。
朝からバタバタして、タスクに追われて、
気づけば昼休みもPCの前で食べていた。
「これ終わらせないと帰れないな」
そんなことを、何も考えずに思っていた。
そのときだった。
ヘルプで来ていたフランス人の同僚が、
帰り支度をしながら言った。
「フランスでは、週35時間以上働くなんてありえませんよ」
あまりにもさらっとした言い方だった。
思わず聞き返した。
「え、てことは1日7時間くらいですか?」
「そうですね」
「それで仕事、回るんですか?」
一瞬の間もなく返ってきた。
「むしろ、日本の方が回ってないですよ」
……え?
その言葉が、妙に引っかかった。
「フランスは法律で週35時間労働ですし、昼休みもちゃんと取ります」
「午後にもコーヒーブレイクありますし、18時前にはほぼ全員帰ります」
聞けば聞くほど、信じられなかった。
「そんなに休んで、業績大丈夫なんですか?」
私は本気でそう思っていた。
すると彼は、少しだけ笑って言った。
「1人あたりの生産性は、日本よりずっと高いですよ」
その一言で、頭が止まった。
その後も話は続いた。
「日本に来て驚いたのは、ランチをPCの前で食べてる人が多いこと」
「あと、定時で帰ると“早いね”って言われること」
全部、当たり前だと思っていたことだった。
でも彼は言った。
「これ、外から見ると“頑張ってる”じゃないですよ」
「効率を改善できない集団に見えます」
その言葉が、妙に残った。
私はその日も、残業前提でスケジュールを組んでいた。
終わらなかったら、残ればいい。
それが普通だと思っていた。
でも、それって本当に普通なのか?
ふと考えた。
私はこれまで、「休まず働くこと」を誇りにしてきた。
忙しいことが、評価されると思っていた。
でも彼は言った。
「フランスでは、休めない人は評価が下がります」
「え、なんでですか?」
思わず聞いた。
「休めないってことは、効率が悪い仕事をしてるってことですから」
その瞬間、言葉が出なかった。
全部、逆だった。
今まで正しいと思っていたことが、全部ひっくり返った。
頑張ってるつもりだった。
でも、それはただ“無駄を改善できていない状態”だった。
その日の帰り道、ふと考えた。
「よく頑張ってるね」って言われること。
それって、本当に褒め言葉なのか?
もしかしたら、
「なんでそんな非効率なことしてるの?」
って意味だったのかもしれない。
次の日、私は少しだけ変えてみた。
昼休み、PCを閉じた。
最初は落ち着かなかった。
でも、それで何かが遅れたわけじゃなかった。
むしろ、午後の集中力が違った。
小さなことだった。
でも、確実に何かが変わった気がした。
あの日の一言は、ただの雑談じゃなかった。
私の働き方を、根本から揺らした一言だった。
そして今、思う。
もしかしたら私はずっと、
「頑張ってるつもり」になっていただけだったのかもしれない。
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