朝の空気は少し肌寒く、冬の名残を感じる。私はカウンターに座り、熱いコーヒーを手に持ちながらスマホを覗き込んでいた。画面には、元義母からのメッセージが届いていた。
「●●ちゃんに今から会いに行きますね。パウンドケーキ作りましたよ❗」
思わず息を止めた。時間は11時56分。幼稚園の送迎を終え、ようやく落ち着いた昼休みのはずだった。私は急いで返信する。
「今日は幼稚園です。」
返信ボタンを押す指が震える。心の中で「どうして今、急に?」とつぶやいた。元義母は、かつて私の結婚生活に介入してきた人物だ。感情の起伏が激しく、理不尽な要求を突きつけることで有名だった。私の胸の奥は、無意識に緊張で固まった。
画面がすぐに反応する。
「なんで?」
その一言に、私は思わずコーヒーカップを強く握りしめた。指先に伝わる熱さが、緊張を少し和らげる。だが、心は冷たい。私は静かに深呼吸をし、頭の中で状況を整理する。
元義母は、今の私たちの生活を無視して、自分の都合で動こうとしている。前に私たちが合意したことも、息子が支払うべき養育費も、まるで存在しないかのようだ。
心の中で怒りが渦巻く。
「元義母なのに、どうして急に会えると思ってるんだ…」
文字にしてつぶやいても、空気は変わらない。周囲の人々は、昼休みの雑音に集中していて、私の内心の嵐には気づかない。
私は画面に手を伸ばし、少し冷たい指で再度タイプする。
「息子さん、養育費も払ってくれませんよね?」
送信ボタンを押すと、すぐに返信が返ってきた。
「…でも、会いたいだけなのよ?」
その言葉に、私の怒りは一層強くなる。会いたいだけ? その裏には何もないのか。いや、表向きはそれでも、現実は私たちの生活に迷惑をかけるだけだ。私は画面を見つめながら、深く息を吐く。
思考が飛び交う。幼稚園の予定、息子の生活費、私たちの自由時間…すべてが、この一通のメッセージで乱された。パウンドケーキの写真が画面に表示され、湯気が立つように美味しそうだが、私は何も感じない。料理の温かさよりも、精神的な冷たさが勝る。
「甘い物で釣ろうとしても、私たちは簡単には揺さぶられない…」
心の中で自分を落ち着けながら、画面のスクロールを止める。元義母の文章の端々に潜む、自己中心的な考えが見える。
怒りと失望が混ざる。しかし、ここで感情的になれば、相手の思うつぼだ。
私は再度、静かに指を動かす。
「私たちの生活を尊重してください。今は会えません。」
送信ボタンを押すと、画面が静かに光るだけで、相手の反応はまだ返ってこない。私は深呼吸をし、椅子にもたれかかる。カウンターの窓から見える外の光は、昼の柔らかい日差し。外では、子どもたちの笑い声が微かに聞こえる。
頭の中で反芻する。
どうして元義母は、いつも自分の都合で動こうとするのか。子どもや私たちの生活を考えず、ただ「会いたい」だけで動く。その矛盾に、私は言葉を失いそうになる。
だが、ここで冷静になった自分を誇りに思う。怒りで突っ走れば、元義母の思う壺。理性的に、事実だけを見せつけることで、私は精神的に一歩優位に立ったのだ。
「これ以上は無視でいい…」
心の中でつぶやきながら、私はスマホをポケットにしまう。目の前のコーヒーカップに視線を落とす。香ばしい匂いだけが、現実に戻してくれる。外の昼の光、通りを歩く人々、静かなカフェの雰囲気…全てが、私の心を少しずつ落ち着かせる。
結局、私は深く息を吐き、心の中で呟く。
「甘い物で釣られても、私は揺さぶられない…元義母さん、もうちょっと現実を見てほしいもんだ」
スマホを手に取らず、ただ静かにその場の空気を感じる。怒りも失望も、すべて整理して、昼休みの静寂に溶け込ませた。