玄関を開けた瞬間、嫌な匂いがした。
酒の匂い。
湿った靴の匂い。
そして、できれば一生嗅ぎたくない種類の、あの匂い。
私は鍵を握ったまま、しばらく動けなかった。
廊下の電気だけが白々しく光っている。
家の中は静かだった。
ただ、その静けさが余計に気持ち悪かった。
嫌な予感は、もう予感ではなかった。
玄関の床を見た瞬間、胸の奥で何かが切れた。
靴がびっしょり濡れていた。
私の靴も。
玄関マットも。
床の端も。
そして、リビングのほうからは、酔いつぶれた旦那の重たい寝息が聞こえてきた。
まただ。
一年半前にも、同じことをやった。
その時も私はブチ切れた。
泣きながら掃除した。
靴を洗い、床を拭き、消毒し、換気をして、それでも怒りと情けなさが消えなかった。
その時、旦那は言った。
「もう絶対しない」
「酒を控える」
「本当に悪かった」
私は信じたわけではない。
でも、信じたい気持ちはあった。
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