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バーキンを頼んだだけなのに、1920円という呪文を延々と聞かされた話。
2026/06/21

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あの日、私はただ晩ご飯を食べたかっただけだった。

残業が長引き、時計を見るとすでに夜の九時半を回っていた。冷蔵庫の中は空っぽ。今からスーパーへ行く気力もない。

「今日はバーキンでいいか……」

そう思ってUber Eatsを開き、ワッパーセットを注文した。

注文完了。

あとは待つだけ。

そう思っていたのだが、二十分ほど経った頃、一通のメッセージが届いた。

配達員さんからだった。

「申し訳ありません。店舗が大変混雑しております。このままですとかなりお時間をいただく可能性があります。よろしければキャンセルをご検討ください。」

正直、少し驚いた。

でも腹は立たなかった。

むしろ律儀な人だなと思った。

だって普通なら何も言わずに待たせることだってできるはずだ。

わざわざ状況を説明してくれている。

だから私は低評価どころか、「大変なんだな」と同情した。

ただ、一つだけ気になった。

もし配達員さんからキャンセルを勧められてキャンセルする場合、料金はどうなるんだろう。

そこでUberのカスタマーサポートを開いた。

そして地獄が始まった。

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私は聞いた。

「キャンセルする場合、キャンセル料は発生しますか?」

するとAIは即答した。

「はい。キャンセル料は1920円です。」

なるほど。

ここまではいい。

問題は次だ。

私はさらに聞いた。

「配達員からキャンセルを勧められた場合でも発生しますか?」

すると返ってきた答えは、

「商品受け取り後に異議申し立てをしてください。」

だった。

いや、違う。

そうじゃない。

私はまだ受け取っていない。

今キャンセルするか悩んでいるのだ。

そこで私はもう一度説明した。

「受け取り後の話ではありません。こちらに落ち度がない場合でもキャンセル料は発生するんですか?」

AI。

「はい。キャンセルですね。キャンセル料は1920円です。」

私はスマホを見つめた。

そして思った。

こいつ、人の話を聞いてない。

いや、人ですらない。

完全に会話が成立していない。

それでも諦めずに聞いた。

「つまりどんな事情でも1920円払うという理解でいいんですね?」

するとAIはこう答えた。

「問題ありません。他にご質問はありますか?」

私は吹き出した。

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問題しかないだろ。

今まさにその問題について話しているんだ。

「他に質問はありますか?」じゃない。

今の質問に答えてくれ。

だが何度やり取りしても結果は同じだった。

1920円。

1920円。

1920円。

もはや会話ではなく呪文だった。

最終的に私は諦めた。

これ以上話しても埒が明かない。

そこで配達員さんへ連絡した。

「キャンセル料がかかるみたいなので、そのまま待ちます。事情は理解していますので低評価はしません。

すると数秒後。

「ありがとうございます。本当に助かります。」

という返事が届いた。

その一文を見た瞬間、なんだか複雑な気持ちになった。

長時間並ばされているのはこの人だ。

怒られる可能性があるのもこの人だ。

低評価を受けるのもこの人だ。

なのに一番まともに会話できるのもこの人だった。

結局私は一時間以上待った。

ようやく玄関のチャイムが鳴り、配達員さんが現れた。

開口一番、

「大変お待たせして申し訳ありませんでした。」

と深々と頭を下げた。

私は笑いながら、

「いやいや、本当にお疲れ様でした。」

と返した。

配達員さんはホッとしたような顔をして帰っていった。

そして私は念願のバーガーを手に入れた。

長かった。

本当に長かった。

ようやく食べられる。

そう思って包装紙を開いたその時だった。

スマホが震えた。

見るとUberから通知が届いている。

何だろうと思って開いてみる。

そこに表示されていた文章を見た瞬間、私は思わず声を出して笑ってしまった。

「今回のサポートにご満足いただけましたか?」

満足。

不満。

二つのボタンが並んでいる。

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私はしばらく画面を見つめた。

そしてさっきまでのやり取りを思い出した。

私は質問した。

AIは1920円。

私は説明した。

AIは1920円。

私は確認した。

AIは1920円。

もはや会話の九割が1920円だった。

そんな相手が今さら満足度調査を送ってきている。

もしかするとAIの中では、完璧なサポートが完了したことになっているのかもしれない。

結局その日、私が一番感謝したのは配達員さんだった。

一番腹が立ったのはAIだった。

そして一番笑ったのは、

そのAI自身が送ってきた満足度アンケートだった。

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