クラスで集めた募金で担任が焼肉に行っていた。
「これは先生が預かっておくから」
全員が見ている前で。
「え。横領じゃん」
うちのクラスには募金箱があった。
先生が勝手に始めた制度だった。
「小銭が余ったら入れとけ。強制じゃない」
学期末に箱を開けて集計するのが恒例だった。
「今学期は8,214円です」
「おお。結構集まったな」
問題はそのあとだった。
先生は集計した札と小銭を
自分の財布にしまった。
「え」
「先生それどこに寄付するんですか」
「先生が責任持って届けとく」
「どこにですか」
「いいとこ」
「領収書とかは」
「ない」
教室がざわついた。
「あれ絶対自分で使ってるだろ」
「昼飯とかになってそう」
「先生の焼肉代説w」
疑いは半分冗談で半分本気だった。
でも先生は一度も弁明しなかった。
「疑うなら入れなくていいぞ」
それでもなぜか募金箱は毎学期いっぱいになった。
卒業式の日だった。
最後のホームルームで先生が一通の封筒を出した。
「お前らに読んでほしいものがある」
それは感謝状だった。
宛名は「3年2組のみなさまへ」
差出人は市立病院の小児病棟だった。
「え」
「なんで病院?」
先生は静かに説明を始めた。
「お前らが1年生の時亡くなった同級生がいたの覚えてるか」
教室が静まり返った。
覚えていた。
入学してすぐ病気で入院してそのまま会えなくなった子。
一緒に過ごしたのはたった2ヶ月だった。
「あいつが入院してたのがこの小児病棟だ」
「先生は毎月見舞いに行ってた」
「あいつ言ってたよ。病院の本がボロボロだって」
「新しいの読みたいなあって」
先生の募金箱はその年から始まっていた。
集まったお金は全額あの病棟に届いていた。
本とおもちゃになって。
「なんで言ってくれなかったんですか」
誰かが聞いた。
「あいつの名前を出したらお前ら気を遣って無理に入れるだろ」
「募金ってのは気持ちだ。義理で入れる金じゃない」
「だから先生が黙って悪役やっとけばいいと思った」
「焼肉代って言われてたの知ってますか」
「知ってる。センスあるなと思った」
教室に少し笑いが起きてすぐ泣き声に変わった。
感謝状には続きがあった。
「毎回の寄付額の横に変な数字が書いてありました」
寄付の記録が同封されていた。
私たちが集めた8,214円の月の寄付額は
20,000円になっていた。
どの月もそうだった。
集まった額の倍前後がきっちり届いていた。
「先生。これ金額増えてるんですけど」
「端数が気持ち悪かったんだよ」
「倍になってますけど」
「先生の計算ミスだ」
担任は数学の教師だ。
3年間私たちの小銭に先生は自分の財布から同額を足していた。
「財布に入れた」のは本当だった。
私たちの募金と自分のお金を一緒にして届けるために。
「最後に一つだけ言っとく」
先生は感謝状を教卓に置いて言った。
「善意ってのはな、疑われても黙って続けた分だけ本物になる」
「説明できる善意より、説明しない善意の方がちょっとだけ強い」
「以上。卒業おめでとう」
私たちは全員泣きながら笑った。
焼肉代と疑われた先生は
3年間誰にも言わずに
会えなくなった教え子の「読みたいなあ」を叶え続けていた。
あの教室で一番安い小銭を入れてたのは私たちで
一番高いものを入れてたのは先生だった。
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