取引先との懇親会の席。
私はいつも通り、出された料理を一粒も残さず食べきった。
小さい頃から親に教わった習慣だ。料理を作ってくれた人、食材を育ててくれた人のことを思えば、無駄に残すことこそ失礼だと思って生きてきた。
そんな当たり前の行いが、この日、初めて強く否定された。
席にいた社長が、私の皿をじっと見つめ、眉を強くひそめた。
社長「まともにご飯を食べたことがないのか?」
私 「えっ?」
社長「ちょっと、その食べ方はやめなさい。完全なマナー違反だ」
私「えっ?どこがいけないんですか?全部美味しかったので、残さずいただいただけです」
社長「周りの人はまだゆっくり食事を楽しんでいるのに、君だけ急いで食べ終えて、みんなを待たせている。それに、皿に骨だけむき出しになっている様子は、非常に見苦しく、意地汚い印象を与える。相手に対して失礼だ」
私
「子供の頃から、食べ物を残すのはいけないことだと教わってきました。作ってくれた方に失礼だと思って……」
社長「それはただの子供の考えだ。社会の礼儀は『場の空気を読むこと』だ。君は細かい所作をまったく気にしなさすぎる。このままではいつか大きな失敗をする。生き方自体を直したほうがいい」
その言葉を聞いた瞬間、胸がずしりと重くなった。
ただ食事を大切にしただけなのに、自分の生き方まで否定されるなんて思ってもみなかった。
翌日、私は社長室に呼び出された。
社長は細かいことをずっと気にする性格で、一度気になったことはずっと引きずる。
社長「昨日の食事の件、まだ気になっている。君はいくら売上が良くても、所作が乱雑で細かい礼儀を守れない。お客様は細い部分から人柄を見るんだ。このままでは信用を落とす」
私「確かに私は細かい所作にこだわるタイプではありません。ですが私は毎月、店の中で一番の売上を出しています。他のスタッフが断れる難しいお客様も、私が誠実に対応し、信頼をいただいています」
社長「売上だけで人を判断するな。人の品格は細部に出る。食事のマナー一つ満足にできない人間が、大事な商談を成功させられるわけがない」
私「食べ物を大切にする心が、そんなに悪いことでしょうか?」
社長「甘い。君は融通が利かない。場に合わせて態度を変えられない、そこが君の一番の欠点だ」
私は黙っていた。
私は普段から細かいことを気にせず、人柄をまっすぐに、明るく接してきた。
それがお客様に好かれ、売上トップになれた理由なのに。
ただの性格の違いを、「欠点」「未熟な生き方」と否定されるのは悔しかった。
私は、ずっと抑えていた言葉をはっきりと伝えた。
私「社長、一つだけ聞かせてください。昨日一緒にいた取引先の方から、後日直接連絡をいただきました」
私「『全部美味しく食べる姿が誠実で、信頼できる人だと感じた』と、わざわざ褒めてくださったんです」
社長は一瞬言葉を失い、黙った。
私「礼儀とは、細かい動作を型通りに守ることではないと思います。相手の気持ちを尊重し、物を大切にする心こそ、本当の礼儀です」
私「私が長年続けてきた『食べ物を残さない』習慣は、誰かを不快にさせるためではなく、作ってくれる人への感謝からです。それを『意地汚い』『マナー違反』と全否定するのは、あまりにも乱暴です」
私「場の空気を壊したのは、楽しく食事をしている人にわざわざ難癖をつけ、人の生き方まで否定した社長の方です」
私「私は細かいマナーの型にとらわれず、お客様の心に寄り添って営業し、ずっと売上トップを守ってきました。
数字もお客様の評価もすべて結果が出ています」
私「細かい所作だけで、人の誠実さや生き方を否定するのは、間違っていると思います」
社長は唇を引き締め、冷たい口調で言い返した。
社長「顧客に気に入られているからといって、自分が何でも正しいと思うな。売上が上位なだけで礼儀の欠点を免れるわけではない。どれだけ言っても君には伝わらない、私がどれだけ線引きを示しても無駄なようだ」
私は淡く息を吐き、動じず答えた。
私「顧客の心を掴める誠実さと、細かい食事の所作は両立できるはずです。線引きという名の自分のこだわりを他人に押し付けるのは、線引きではなくただの押し付けです」
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