クラスに風呂キャン2週間の女の子がいた。
教室の誰もが匂いで気づいていた。
近づく人はいなかった。
席は私の隣だった。
陰で「臭い」と言われているのは、本人も知っていた。
それでも何も言わなかった。
ある日、思い切って聞いた。
「お風呂、入ってない?」
その子はうつむいた。
「入れないんだ」
「どうして」
「うちのお風呂、
壊れてて」
「直せないの」
「お金がなくて」
何も言えなかった。
「銭湯とかは」
「毎日は無理」
「お母さんは」
「仕事でいない」
「お父さんは」
少し間があった。
「いないの」
そこから先は聞かなかった。
その日、家で母に打ち明けた。
母はしばらく考えていた。
「明日、うちに連れてきなさい」
「どうするの」
「お風呂に入れてあげるの」
次の日、その子を家に連れて帰った。
母はお風呂を沸かして待っていた。
「ゆっくり浸かっていきな」
その子が浴室に入った。
なかなか出てこなかった。
心配で声をかけた。
「平気?」
「平気」
声がかすかに震えていた。
出てきた時、目が真っ赤だった。
「泣いた?」
「泣いてないよ」
でも泣いたのはわかった。
母が夕飯を用意していた。
その子は夢中で食べた。
「慌てなくていいよ」
「美味しいです」
「おかわりしていいからね」
茶碗3杯食べた。
帰り際、その子が母に頭を下げた。
「ありがとうございました」
「また来ればいい」
「いいんですか」
「いつでもおいで」
それからその子は、週に何度かうちに通った。
お風呂と夕飯だけの、静かな習慣だった。
しばらくして、母に尋ねた。
「どうしてあそこまでしてあげるの」
母は少し黙ってから答えた。
「昔の自分を見てるみたいだから」
「え」
「お母さんも子供の頃、お風呂に入れなかったの」
「その時ね、近所のおばさんがうちのお風呂においでって言ってくれた」
「だから次は私の番なのよ」
あの子を助けた理由は、助けられた記憶だった。
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