新幹線に乗り込み、指定された自分の座席に向かうと、思わず立ち止まった。
前の座席に置かれた緑色の特大スーツケース――座席2つ分を占拠しており、しかも安全帯まで巻かれてしっかり固定されている。
座席に置けるはずの手荷物も入らず、私は荷物を抱えたまま立ちすくむしかなかった。
「空いてるんだからいいでしょ」
持ち主はスマホをいじりながら笑い、こちらを全く気にしていない。
安全帯でしっかり固定された行李の姿は、まるで「絶対どかさないぞ」と言わんばかりで、目の前の座席を完全に占拠している。
私は小さく息をつく。
「いやいや……これはやばい」
座席の半分は使えないうえ、安全帯まで装着されているので無理やり動かすこともできない。
心理的圧迫と物理的制約で、思わず苛立ちがこみ上げてくる。
「すみません、その座席は使えません」
小声で声をかけると、持ち主は肩をすくめて笑い返すだけでスマホを離さない。
「何言ってんの、この人」
明らかに挑発的な態度だ。
周囲の乗客もちらりと見ているだけで、誰も手助けしない。
私はため息をつき、まず冷静に行動することにした。
スマホを取り出し、行李の位置、座席占拠状況、安全帯の装着具合を記録する。
これは後で列車員に状況を説明する証拠になる。
しかし、このままでは座席を使えないまま時間が過ぎるだけだ。
私は覚悟を決め、車掌を呼ぶ。
「すみません、前の座席の行李が二つ分占拠され、安全帯まで巻かれています。持ち主は片付けません」
車掌は状況を確認し、すぐに前方に歩み寄る。
「このままでは座席が使用できません。持ち主の方、整理をお願いします」
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください