夜勤明けの朝は、世界が少しだけぼやけて見える。
玄関の鍵を開ける指先にも力が入らず、靴を脱いだ瞬間、私はそのまま床に沈み込みそうになった。
昨夜の病棟は忙しかった。
ナースコールは途切れず、記録は積み上がり、明け方には頭の中まで蛍光灯の白さでいっぱいになっていた。
ようやく家に戻ってきた。
今日は寝る。
絶対に寝る。
そう決めて、カーテンを半分だけ閉め、冷たい水を一口飲んだ。
その時だった。
庭のほうで、かすかに土を踏む音がした。
ザッ。
ザッ。
最初は風かと思った。
けれど、次の瞬間、窓の向こうに人影が揺れた。
心臓が一気に跳ねた。
泥棒?
業者?
いや、誰かがしゃがみ込んでいる。
私は寝ぼけた頭のまま、そっと庭に出た。
そこで見えた背中に、思わず言葉を失った。
義祖母だった。
「まあ、起きてたの」
義祖母は悪びれもせず、軍手をした手で土を払った。
「バラを見に来ただけよ。インターホン鳴らしたら悪いと思って」
いや、悪いと思ったなら庭に入らないでほしい。
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