「ちょっとだけだから、いいじゃないですか」
そう言って、向かいの一家は何度もうちの駐車場に車を停めていた。
最初は一回だけだった。
「来客が来てて…少しだけ貸してもらえません?」
そう頭を下げられて、こちらも近所付き合いがあるから断れなかった。
でも、それが間違いだった。
次からは勝手に停めるようになった。
しかも本人だけじゃない。息子、親戚、友人、果ては工事業者の車まで。
仕事から帰ると、うちの駐車場に知らない車が停まっている。
電話しても、「あ、すぐどかします〜」
謝っているようで、まるで悪いと思っていない。
一度、「困るのでやめてください」とはっきり伝えたことがある。
すると向かいの旦那は笑いながら、
「でも空いてるじゃないですか」
と言った。
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
空いてるから使っていい?
ここは月極でもない。コインパーキングでもない。
うちの敷地だ。
でも相手は、本気で“使っていい場所”だと思っていた。
それからも違法駐車は続いた。
しかも最近では、うちの車の出入りを塞ぐように路上駐車まで始めた。
何度も切り返さないと車が出せない。
それでも相手は知らん顔。
妻には「もう関わらない方がいいよ」と言われていた。
正直、私も揉めたくなかった。
近所トラブルは面倒だ。毎日顔を合わせる。
でもある日、ついに限界が来た。
キャンプ場の仕事で一泊して、翌朝帰宅した時だった。
……また停まっている。
しかも今回は、完全にうちの駐車スペースの真ん中。
その瞬間、怒りより先に呆れが来た。
「ああ、この人たち、もうダメだ」
私は無言で警察に電話した。
しばらくしてパトカーが来た。
すると近所のカーテンが少しずつ開き始めた。
皆、知っていたのだ。
向かい一家が迷惑駐車の常習犯だと。
警察がナンバー照会を始めて数分後、向かいの奥さんが慌てて飛び出してきた。
「え!?ちょっと!なんで警察なんですか!?」
いや、こっちが聞きたい。
なぜ他人の家に、勝手に車を停めて平気なのか。
さらに旦那も出てきて、
「こんな大げさにしなくても…」
と不満そうに言った。
その瞬間、今まで我慢していたものが全部吹き飛んだ。
「大げさ?何回言いました?何回注意しました?」
「あなた達のせいで、何回車出せなかったと思ってるんですか?」
「空いてるからいい?じゃああなたの家の玄関、空いてたら勝手に入っていいんですか?」
周囲が静まり返った。
向かいの旦那は顔を赤くしながら、
「そんな言い方…」
と言い返そうとした。
だが、その時。
警察官が静かに言った。
「私有地への無断駐車は、立派なトラブルになります」
「今後同じことが続く場合、記録として残りますので」
その瞬間だった。
さっきまで強気だった旦那の顔色が、目に見えて変わった。
警察には逆らえない。
結局その場で、夫婦そろって頭を下げることになった。
しかも近所中に見られながら。
それ以来、違法駐車はピタッと止んだ。
路上駐車も消えた。
最近では、私の顔を見ると向こうから避けるようになった。
正直、もっと早く通報すればよかったと思っている。
“近所だから”“揉めたくないから”
そうやって我慢する人間を、図々しい人はどんどん舐めてくる。
でも一度、ちゃんと線を引くと、相手は急に静かになる。
結局、ルールを守る人が損をする社会にしたらダメなんだと思う。
あの日、パトカーの赤色灯を見ながら、
私は人生で初めて「警察って本当に頼もしいな」
と思った。