2026年5月10日。日曜日。午後2時過ぎ。
浪早ビーチ。
風が強い。
潮の香りが鼻を刺す。
砂浜はざわついている。子供たちの笑い声。バーベキューの煙が空に舞う。
俺は息子を追って、この海辺に来た。
ただ、遊ばせるだけじゃない。
今日は、彼の友達も7、8人も連れてきて、水遊び、砂遊び、走り回る予定だった。
計画通り。
でも、計画は、あっという間に崩れた。
最初は小さな衝突。
息子が、相手の子供——黒いTシャツのボーイ——に背中を叩かれた。
「ごめん!」
息子は即座に謝った。
頭を下げて、手を合わせて、目を伏せて。
でも、相手の父親——ロン毛、黒い長袖に短パン、サンダルに泥——は、それを見て、眉をひそめた。
「何やってんの?」
声は低く、でも鋭い。
息子は顔を上げた。
「ご、ごめんなさい…」
でも、その男は、息子の髪を掴んだ。
「え?」
俺の心臓が、一瞬止まる。
指が、子供の髪をしっかりと握りしめる。
「謝るだけで済むと思ってんのか?」
「ちょっと!」
俺は前に出た。
でも、男は振り向かない。
「あんた、子供の面倒見てんの?」
「はい、息子です。
何か問題が…?」
「問題?」
男は笑った。
でも、笑ってない。
歯が見える。
「こいつ、俺の子供に触ったんだよ。背中。無茶苦茶に。」
「触ったのは息子ですが、すぐに謝りました。それで…」
「謝るだけでいいのか?」
また、髪を掴む。
今度は、強く。
「痛い!」
息子の声が、海風に切り裂かれるように響く。
男は、髪を引っ張り、ゆさぶる。
1回。
2回。
3回。
4回。
砂浜が、息子の足元から崩れる。
「うわああ!」
息子が、海に落ちる。
水しぶきが上がる。
太陽の光が、波に反射して、刺すように目に飛び込む。
俺の視界が、一瞬白くなる。
「おい!」
俺は走った。
砂が足に食い込む。
心臓が、喉まで飛び上がりそう。
息子は、水の中に立っていた。
濡れている。
震えている。
目は、涙で曇っている。
でも、泣いていない。
「パパ…」
声が、小さすぎる。
俺は、息子に駆け寄った。
「大丈夫? 怪我は?」
「…痛くない。」
でも、声が震えてる。
「あの人、お父さんだよね?」
息子は、海を指差した。
男は、まだそこに立っていた。
腕組み。
顎を上げて。
「何やってんの?」
また、俺に向かって言う。
「こいつ、俺の子供に悪戯したんだよ。謝るだけで終わらせるつもりか?」
「悪戯? ただ背中を軽く叩いただけです。息子はすぐに謝りました。」
「軽く?」
男は、足を砂に踏みつけた。
「こっちは子供を育ててるんだ。迷惑被るの、嫌だ。」
「迷惑? 息子は謝った。それ以上のことは…」
「謝るだけじゃ足りない。」
彼は、もう一度、息子の方へ歩き出した。
「待て!」
俺は、息子を後ろに隠した。
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