「息子くん、今日学童お休みですか?」
仕事中、その電話を受けた瞬間、私は血の気が引いた。
時計を見る。
もう夕方。
本来なら、とっくに学童に着いている時間だった。
「え……行ってませんか?」
嫌な汗が出る。
急いでGPSを確認すると、息子の位置情報は“自宅”。
私はパニックになりながら、仕事を飛び出した。
札幌に引っ越してきて、まだ7ヶ月。
私は転勤族で、息子もまだこの街に慣れきっていない。
嫌な想像ばかり浮かぶ。
事故?誘拐?どこかで泣いてる?
震える手で家の鍵を開けた。
ランドセルだけが置いてあった。
でも――息子がいない。
頭が真っ白になった。
「○○!!」
何度呼んでも返事はない。
私はそのまま外へ飛び出した。
学童の先生達も、学校の先生達も、一緒に探してくれていた。
近所を走り回る。
公園。通学路。交差点。
でもいない。
その時だった。
学校から電話が入った。
「息子くん、 ローソンで保護されています」
一瞬、力が抜けた。
涙が出そうになる。
「担任の先生が向かっています」
私はすぐローソンへ向かった。
店に入ると、入口近くに息子がいた。
目を真っ赤にして、口の周りをチョコだらけにして、小さく座っていた。
その姿を見た瞬間、腰が抜けそうになった。
「ママぁ……」
泣きながら抱きついてくる息子。
私は何度も、「よかった……よかった……」と繰り返した。
店員さんが、優しく事情を説明してくれた。
息子は家に帰ったあと、“今日は学童だった”ことを思い出したらしい。
でも、家には誰もいない。
隣の家に助けを求めようとしたけど、留守だった。
しかも前日に学校で、防犯の「いかのおすし」を習ったばかり。
『知らない人について行かない』
『危ないと思ったら逃げる』
その言葉が頭に浮かび、外にいるのが急に怖くなったという。
そして息子は、泣きながらローソンに入った。
「助けてください」
ちゃんと言えたらしい。
店員さんは、そんな息子を見て、すぐに店の奥へ連れて行ってくれた。
「怖かったね」
そう言いながら、チョコを渡してくれたという。
その優しさに、私は涙が止まらなかった。
店長さんは学校へ連絡。
担任の先生も、すぐ店まで駆けつけてくれた。
学童の先生達も、ずっと探してくれていた。
みんな、うちの息子のために動いてくれていた。
札幌に来る前、私はずっと言っていた。
「雪国だけは絶対イヤ」
寒いし、雪かき大変だし、知り合いもいない。
でも、札幌に来てから、何度も人に助けられた。
雪に埋まった車を、知らない人が押してくれた。
道に迷った時、おばあちゃんがバス停まで送ってくれた。
そして今日。
泣いている息子を、ローソンの店員さんが守ってくれた。
息子は帰り道、小さな声で言った。
「ぼくね、 ちゃんと“助けてください”って言えたよ」
私はまた泣きそうになった。
怖かっただろう。
不安だっただろう。
それでも、ちゃんと助けを求められた。
それを受け止めてくれる大人が、ちゃんといた。
最近、物騒なニュースばかり見る。
人を疑え、知らない人には気をつけろ、そんな言葉ばかり増えていく。
でも今日、私は思った。
この社会、まだ捨てたもんじゃない。
泣きながら助けを求めた子どもに、ちゃんと手を差し伸べてくれる人がいる。
それだけで、少し救われる気がした。