「そんなの捨てた方がいいよ。」
友達にそう言われた時、私は少しだけムッとした。
4月13日。
いつものようにリサイクルショップをぶらぶらしていた私は、棚の隅に置かれていた黒いバッグを見つけた。
Dior。
値札は2,480円。
ブランド品に詳しいわけではない。
ただ、なんとなく気になった。
黒いレザー。
重厚感のあるチェーン。
使い込まれた雰囲気。
状態は決して良くなかったが、妙に目を引いた。
「まあ、失敗しても2,480円だし」
そんな軽い気持ちで購入した。
その日の夜、友達に写真を送った。
すると返信は一瞬だった。
「なにこれ?」
「持ち手ボロボロじゃん」
「こんなの持って歩けないでしょ」
「さすがに捨てた方がいいって」
さらに笑いながら、
「2,480円でも高くない?」
とまで言われた。
正直、少し傷ついた。
改めてバッグを見てみる。
確かに持ち手は剥がれている。
金具にも細かい傷がある。
レザーも新品のような艶はない。
言われてみれば、ゴミに見えなくもない。
私はため息をついた。
「やっぱり失敗だったかな……」
そう思いながらネットで調べ始めた。
すると不思議なことに、似たようなバッグが次々と出てくる。
しかも値段がおかしい。
5万円。
8万円。
12万円。
中には20万円近いものまであった。
最初は偽物だと思った。
だが調べれば調べるほど、私のバッグに近いモデルが高値で取引されていることが分かった。
それでも半信半疑だった。
本当にそんな値段で売れるのだろうか。
どうせ売れないだろう。
そう思った私は、半ばヤケクソでメルカリに出品した。
価格は16万円。
売れるなんて思っていない。
むしろ友達への意地だった。
「ほら見ろ、こんな値段で出してやったぞ」
そんな気持ちだった。
出品ボタンを押し、スマホを机に置く。
そしてコーヒーを入れに席を立った。
数分後。
スマホが鳴った。
通知を開いた私は思わず固まった。
「商品が購入されました」
頭が真っ白になった。
何かの間違いかと思った。
確認しても間違いない。
本当に売れている。
しかも出品から5分も経っていない。
私は慌てて購入者のプロフィールを確認した。
ブランド品の取引実績が大量にある。
明らかに素人ではない。
さらに購入者からメッセージが届いた。
「ずっと探していました。」
「このモデルは最近なかなか見つからないんです。」
その時、私は初めて本気で調べ直した。
すると驚くべき事実が分かった。
このバッグは2000年代初頭に登場した、ジョン・ガリアーノ時代のDiorだった。
現在ではY2Kファッションブームの影響で再評価されており、コレクターの間で人気が高まっている。
特にチェーンや特徴的なデザインを持つモデルは需要が高く、多少状態が悪くても欲しがる人がいるらしい。
つまり私が見ていたのは「ボロボロの中古バッグ」ではなく、「探している人には価値のあるヴィンテージ品」だったのだ。
私はすぐに友達へスクリーンショットを送った。
「売れた。」
たった一言。
数秒後。
「え?」
「16万?」
「マジ?」
「嘘だろ……」
さっきまで散々笑っていた友達が、今度は絶句していた。
その反応を見た瞬間、思わず吹き出してしまった。
もちろん私はブランド鑑定士ではない。
特別な知識があったわけでもない。
ただ、人が価値がないと思ったものを、少しだけ調べてみただけだ。
あの日、私が手に入れたのはバッグではなかったのかもしれない。
「見た目だけで判断しないことの大切さ」
だったのだと思う。
持ち手がボロボロだから価値がない。
古いから価値がない。
そんなふうに決めつけていたら、このバッグは一生ただの中古品のままだった。
誰かのゴミは、本当に誰かの宝かもしれない。
そして一番驚いたのは、16万円で売れたことよりも――
「捨てろ」と言っていた友達が、その翌日からリサイクルショップ巡りを始めたことだった。
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