「すみません…トイレ、水が溢れてます」
昼過ぎ、常連のお客さんがレジまで来てそう言った。
嫌な予感がして急いでトイレへ向かうと、扉を開けた瞬間、思わず声が出た。
床一面が水浸しだった。
便器から水が溢れ、トイレの床に広がっている。
しかも中を確認すると、原因はすぐに分かった。
トイレットペーパーだけじゃない。
紙コップ、菓子の袋、ビニール、ティッシュの塊――
とにかく色々なゴミが、無理やり便器の奥に押し込まれていた。
普通に使ってこうなる状態じゃない。
完全に「わざと」詰まらせている。
営業の合間にモップを持って水を処理し、詰まりを取り除いたが、それだけでかなりの時間がかかった。
正直、かなり腹が立った。
「これはさすがに放っておけないな」
私は一枚の紙を書いて、トイレの前に貼った。
そこにはこう書いた。
10月3日 16時10分頃
わざとトイレットペーパー
その他ゴミをトイレにつまらせている
小学生男子2名
自転車 青いリュック メガネ
顔もはっきりわかっています。
警察に言って学校と名前、住所を調べ中!!
この紙を見たらすぐに
あやまりに来ること!
正直、本当に警察に行くつもりだったわけじゃない。
ただ、このまま何も言わずに終わらせるのも違うと思っただけだった。
すると、その日の夜。
店の扉が開いた。
入ってきたのは母親らしき女性と、
その後ろに並ぶ二人の小学生だった。
二人とも完全にうつむいている。
女性はレジの前まで来ると、深く頭を下げた。
「トイレの件ですが……
この子たちがやりました。本当に申し訳ありません」
横にいた二人も、小さな声で言った。
「……ごめんなさい」
私はため息をついた。
正直、怒鳴る気にもならなかった。
代わりに静かに言った。
「謝るだけじゃなくて、自分たちで片付けようか」
モップと雑巾を渡すと、二人は黙ってうなずいた。
そして昨日、自分たちが水浸しにしたトイレを掃除することになった。
最初はぎこちなかったが、しばらくすると無言で床を拭き始めた。
母親は横で何度も頭を下げていた。
「修理や清掃にかかった費用は、すべてこちらでお支払いします」
私は軽くうなずいた。
掃除が終わる頃、二人はすっかり疲れた顔になっていた。
一人がぽつりと言った。
「もう、やりません…」
その言葉を聞いて、ようやく少しだけ怒りが抜けた。
トイレは元の状態に戻り、床の水もきれいに拭き取られていた。
私は最後にこう言った。
「次からは、人が使う場所だってことをちゃんと考えな」
二人は小さくうなずいた。
そして母親と一緒に、もう一度頭を下げて店を出ていった。
静かになったトイレを見て、私はようやく肩の力を抜いた。