ポストを開けた瞬間、見慣れたロゴが目に入った。
NHK。
私はその封筒を見て、少しだけ嫌な予感がした。
請求か。
案内か。
それとも、またよく分からない確認書類か。
テーブルに置き、封を切る。
中から出てきた紙には、こう書かれていた。
「ご契約住所の変更のお知らせ」
私は一行目で手を止めた。
住所変更?
私は何も届け出ていない。
引っ越したことをNHKに連絡した覚えもない。
そもそも、こちらから何か手続きをした記憶がない。
なのに、紙の文面はやけに落ち着いていた。
まるで、当然のことをお知らせしているだけのように。
読み進めると、さらに目が止まった。
お届けができない場合、NHKが大機関への調査により住所を確認することがある。
そして、今回は住民票の写しを取得し、転居先を確認した。
そのため、契約住所を変更した。
私は思わず声を出した。
「え、勝手に?」
静かな部屋に、自分の声だけが響いた。
いや、意味は分かる。
書いてある日本語は読める。
でも、心が追いつかない。
こっちは何もしていない。
向こうが住民票の写しを取った。
転居先を把握した。
そして住所変更手続きをした。
その結果だけが、丁寧な紙で届いた。
丁寧なのが、余計に怖い。
まるで、
「探しました」
「見つけました」
「変えておきました」
と、笑顔で肩を叩かれたような気分だった。
私は紙をもう一度読み返した。
住民票。
写し。
住所変更。
手続き済み。
文字は事務的なのに、内容が強い。
こちらの生活の場所を、向こうが追跡してきたように感じた。
もちろん、法的な根拠があるのかもしれない。
制度上、可能なのかもしれない。
そこは専門家ではない私が即断することではない。
でも、受け取った側の感情としては別だ。
「こんなのあり?」
それが正直な感想だった。
日常の中で、自分の住所というのはかなり個人的な情報だ。
引っ越し先。
住んでいる場所。
生活の拠点。
それを、自分が伝えていない相手に知られていた。
しかも、わざわざ書面で、
「確認しましたので変更しました」
と報告される。
この違和感は小さくない。
私は封筒を裏返した。
転送不要。
つまり、ここに確実に届くように出している。
さらに文面には、これで住所変更を届ける必要はない、とまで書いてある。
親切なのか。
圧なのか。
判断に困る。
いや、親切というには少し追跡能力が高すぎる。
探偵事務所かと思った。
テレビ番組の取材力を、契約住所の確認に使わないでほしい。
私は椅子に座り、しばらく考えた。
公共放送。
契約。
受信料。
住所変更。
どれも、理屈としては分かる言葉だ。
でも、実際に自分の名前と住所が絡むと、急に生々しくなる。
引っ越した先で、まだ段ボールも片づいていない。
役所の手続きや電気ガス水道で頭がいっぱい。
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