その声で、私のほうが恥ずかしくなった。
袋を開けたのは、ほんの少しだけ。
でも中のアボカドは、隠す気ゼロみたいな見た目をしていた。
黄緑の果肉の横から、細い根っこみたいなものがぬるっと出ている。
傷んで黒くなっているなら、まだ分かる。
でもこれは違う。
中で何か育っていたみたいで、見れば見るほど食卓に出す気がなくなっていく。
私は慌てて言った。
「クレームじゃないんです。本当に、食べていいか聞きたいだけで」
レジの女性は嫌な顔をせず、袋の外からじっと見て、
「これは切ってみないと分からないものなので、お持ちいただいてよかったです」
と言ってくれた。
その言い方で少し救われた。
家で大騒ぎしているだけじゃなかったんだ、と思えたから。
すると、後ろの男性が自分のカゴを見下ろした。
そこにもアボカドが一つ入っていた。
「え、俺のも同じ箱のやつですかね」
その一言で、なぜか話が私だけの問題じゃなくなった。
レジの女性は売り場の方を見て、
「今並んでいる分、確認してきます」
と言って、レジ横にいた別のスタッフに短く事情を伝えた。
私はまた申し訳なくなった。
閉店前に、198円のアボカド一個でこんな流れになるとは思っていなかった。
でもスタッフさんは手際がよかった。
売り場から同じ値札のアボカドを数個だけ外して、柔らかくなりすぎているものを別のカゴに分けた。
全部を大げさに回収するわけでもなく、
「念のため、この箱の分だけ確認します」
という感じだった。
そこが逆に信用できた。
私はレシートを出しながら、
「交換だけお願いできますか」
と言った。
するとレジの女性が、
「もちろんです。ただ、今日はすぐ食べる予定でしたか?」
と聞いてきた。
「夕飯に使うつもりでした」
そう答えると、売り場を見ていたスタッフさんが戻ってきて、
「今日なら、こっちの方が切りやすいと思います」
と別のアボカドを選んで渡してくれた。
少し硬さが残っていて、皮にも変なへこみがないものだった。
それだけで、プロっぽいなと思った。
後ろの男性も、自分のカゴのアボカドを差し出して、
「俺も一応、別のにします」
と言った。
それを聞いたレジの女性が笑いをこらえながら、
「今日は皆さん慎重になりますよね」
と返した。
その一言で、ようやく私も笑えた。
最初は、切った食品を持ってくるなんて面倒な客だと思われるかも、と不安だった。
でも実際は、誰も責めなかった。
むしろ、
「食べる前でよかったです」
「写真だけ残して、仕入れ先にも確認します」
と、淡々と対応してくれた。
派手な出来事ではない。
でも、こういう時に店の感じって出るんだなと思った。
家に帰って、新しいアボカドを切った。
今度は普通だった。
種の周りもきれいで、変な突起もない。
たったそれだけなのに、すごく安心した。
タコライスに乗せて食べたら、普通においしかった。
ただ、包丁を入れる瞬間だけは少し緊張した。
あのぬるっと出てきた謎のものを思い出してしまったから。
今回分かった。
変だと思った食べ物は、無理して判断しない方がいい。
そして、返品じゃなくても確認していい。
198円のアボカドでも、ちゃんと見てくれる店はある。
帰り際、レジの女性が最後に言った。
「気づいて持ってきてくださって、ありがとうございます」
あれを聞いて、ちょっと大げさだけど、持って行ってよかったと思った。
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