正直、腹が立った。
介護をしたことがない人には分からないかもしれない。
家族の介護は、こっちの都合で日程を決められるものじゃない。
ケアマネジャーもヘルパーも予定があり、その日にしか動けないこともある。
だから私は事情を説明した。
嘘もついていない。
サボろうとしているわけでもない。
それなのに返ってきたのは業務の話ではなく人格攻撃だった。
私は少し考えた。
昔の私なら謝っていたかもしれない。
「申し訳ありません」
「ご迷惑をおかけします」
そう言って頭を下げていたと思う。
でも今回は違った。
悪いことをしていないからだ。
私はスマホを開き、返信を打った。
「先ほどのメッセージで『バカかアホか』『お花畑』などの侮辱的な言葉を受けましたが、これは明らかなパワーハラスメントです。」
送信ボタンを押した瞬間、不思議なくらい気持ちが落ち着いた。
続けて、
「介護を理由に休みを申し出ることは法律で認められた権利であり、嘘をついているわけではありません。」
とも書いた。
事実だからだ。
感情ではなく事実だけを書いた。
さらに、
「今後のやり取りは記録し、必要に応じて労働基準監督署や社内の相談窓口に相談させていただきます。
」
とも伝えた。
脅しではない。
宣言だ。
そして私はそのままスマホを置いた。
すると、それまで威勢よくLINEを送ってきていた上司から返信が来なくなった。
数分。
数十分。
数時間。
既読は付いている。
でも何も来ない。
あれだけ人を馬鹿にしていた人が、急に静かになった。
たぶん気付いたのだと思う。
今までは口頭だった。
証拠も残らなかった。
だから好き放題できた。
でも今回は違う。
自分の言葉が全部LINEに残っている。
日時も。
内容も。
送信者も。
全部。
後日、会社の相談窓口に経緯を説明した。
担当者はLINEの画面を見て、すぐに保存するように言った。
「これは残しておいてください」
と言われた時、私はようやく確信した。
おかしいのは私じゃなかった。
介護のために休みを相談した人間ではなく、
それに対して
「バカかアホか」
と返した人間の方だったのだ。
あの日、私は怒鳴り返さなかった。
暴言も吐かなかった。
ただ事実を伝えただけだった。
でも結果的に、一番効いた反撃になった。
パワハラをする人は強い人ではない。
相手が反撃しないと思っている人だ。
そして本当に強いのは怒鳴る人ではなく、
自分の権利を理解し、
理不尽に対して「それはおかしい」と言える人だと、
私はあの日初めて知った。
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