深夜、三歳の子どもが激しい咳で何度も目を覚ました。
喉を押さえて泣きながら、呼吸のたびに小さな体が震えている。
私は必死で市販の咳止めシロップを飲ませ、病院で教わった**ネブライザー吸入(吸入療法)**も続けた。
それでも夜になると症状は悪化し、私の不安だけがどんどん大きくなっていった。
このまま呼吸が苦しくなったらどうしよう。
そう思うと眠ることさえできなかった。
限界の気持ちで夜間救急へ駆け込んだ。
診察室にいたのは、白髪の老医師だった。
慌てる様子もなく、ただ静かに子どもの呼吸音を聞き、喉を確認していた。
そして言った。
「強い薬で抑えるより、まず刺激を減らしましょう」
私は戸惑いながら見ていた。
すると医師は小さな容器を取り出し、その中に蜂蜜を入れた。
処方箋には「ハチミツ」とだけ書かれている。
思わず私は聞いた。
「これが…薬なんですか?」
医師は穏やかに頷いた。
「喉の粘膜を保護して、乾いた刺激を和らげます。子どもにはこの方法が一番負担が少ないんです」
半信半疑のまま帰宅し、その夜、言われた通りに蜂蜜をなめさせた。
すると、あれほど止まらなかった咳が少しずつ落ち着いていった。
数日後、夜中に何度も起きていた息子は、久しぶりに朝まで眠ることができた。
その姿を見ながら私は気づいた。
治すということは、必ずしも強い薬で押さえ込むことではない。
体に寄り添う選択も、確かに“治療”なのだと。
あの小さな蜂蜜の瓶は、私たちにとって初めて“安心して眠れた夜”を取り戻してくれた。
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