祖父が亡くなったと連絡が来たのは、大学の講義が終わった直後でした。
スマホを握ったまま、私はしばらく動けませんでした。
「今夜の便で帰ってきなさい」
母の声も、どこか遠く聞こえました。
祖父は、私が小さい頃からずっと優しかった人です。
運動会も、七五三も、受験の日も。
いつだって、一番先に来てくれていました。
なのに私は、大学進学を理由に地元を離れ、ここ半年、まともに顔も見せていませんでした。
「今度帰ったら、ちゃんと話そう」
そう思っていたのに。
その“今度”は、もう二度と来ませんでした。
私は急いで空港へ向かいました。
ゴールデンウィーク終盤の空港は混雑していて、みんな楽しそうに笑っていました。
家族旅行帰りの人。恋人同士。お土産袋を抱えた子ども。
そんな中、喪服姿の自分だけが、別の世界にいるみたいでした。
飛行機に乗り込んだあとも、私はずっと下を向いていました。
泣いたら迷惑になる。
周りに変な空気を作りたくない。
そう思って、必死に堪えていたんです。
でも、離陸して雲の上に出た瞬間でした。
祖父との記憶が、急に溢れてきました。
小学生の頃、熱を出した私を背負って病院へ連れて行ってくれたこと。
進学祝いで、不器用に封筒を渡してくれたこと。
「身体だけは大事にしろ」
最後に電話で言われた言葉。
全部、一気に蘇ってきたんです。
気づいた時には、涙が止まらなくなっていました。
声を出さないようにしても、肩が震えてしまう。
その時でした。
「お客様、大丈夫ですか?」
CAさんが、そっと声をかけてくれたんです。
私は慌てて、
「すみません、大丈夫です」
と答えました。
迷惑をかけたくなくて、必死でした。
でもそのCAさんは、無理に笑わせようとも、深く聞き出そうともせず、
「無理に我慢しなくて大丈夫ですよ」
とだけ言いました。
その一言で、私は完全に崩れてしまいました。
「祖父が……亡くなって……」
それ以上、言葉になりませんでした。
CAさんは、ただ静かに頷いて、
「そうだったんですね」
とだけ返してくれました。
しばらくして、その方は一枚のカードを持って戻ってきました。
手書きでした。
『空の上は、大切な人を一番近くに感じられる場所です』
『少しでも元気になれますように』
その文字を見た瞬間、また涙が溢れました。
でも、さっきまでの涙とは違いました。
悲しいだけじゃなかった。
“ひとりじゃない”
そう思えたんです。
飛行機を降りる時、私は深く頭を下げました。
CAさんは最後に笑って、
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
と言ってくれました。
祖父を失った悲しみは、今でも消えていません。
でも、あの日の飛行機で私は知りました。
人は、たった一言で、誰かを救えることがあるんだって。
そして今でも飛行機に乗ると、雲の向こうに祖父がいる気がします。
あの日、私を支えてくれたCAさんの優しさと一緒に。