「これ、偽札ですよね?」
レジの店員にそう言われた瞬間、姉の顔から血の気が引いたそうです。
ゴールデンウィーク中のショッピングモール。レジには長蛇の列。後ろにはイライラした客たち。
そんな中、一枚の千円札のせいで、姉は突然“犯罪者を見るような目”を向けられました。
問題の紙幣は、お釣りでもらったものだった。
最初は普通の千円札に見えたらしい。
でもよく見ると、野口英世の顔が妙に笑っている。
しかも表面が少し浮いている。
店員は受け取った瞬間、表情を変えた。
「少々、お待ちください」
その声で、後ろに並んでいた客が一斉にこちらを見る。
店長が呼ばれ、レジが止まった。
空気が、一気に変わった。
「どちらで入手されましたか?」
姉は慌てて説明した。
「いや、今日お釣りでもらっただけで…!」
でも、店長の視線は冷たい。
後ろからはヒソヒソ声。
「偽札じゃない?」「怖…」
中には露骨に距離を取る人までいたらしい。
姉はただ買い物に来ただけだった。
なのに、数分前まで普通だった日常が、一瞬で崩れた。
店長は警察への連絡を検討し始めた。
姉は泣きそうになりながら、財布の中身を全部出した。
「本当に知らないんです…!」
でも、店側からしたら当然だ。
もし偽札を見逃したら、今度は店側が責任を問われる。
レジ前は地獄みたいな空気だったらしい。
結局、店長の判断で、近くの銀行に確認することになった。
姉は半泣きのまま同行。
そこで初めて、事態の全貌がわかった。
紙幣自体は“本物”。
ただ、顔部分に極薄の紙が貼られていた。
つまり、悪質なイタズラ。
銀行員は苦い顔で言った。
「ですが…」
「これ、偽物と誤認されても仕方ありません」
さらに続けた。
「もし“偽物かもしれない”と気づいた上で使用した場合、使用者側も問題になります」
姉は凍りついた。
つまり――
知らずに持っていただけの人間が、一歩間違えれば“犯罪者扱い”される。
ふざけ半分で貼った誰かは、笑って終わりかもしれない。
でも、受け取った側は人生が終わる可能性すらある。
その後、警察も来た。
すると、さらに最悪な事実が発覚した。
防犯カメラを確認した警察官が言った。
「この紙幣、数日前から同じ地域で確認されています」
しかも、最初に使った人物は――
コンビニで仲間と笑いながら、わざと反応を撮影していたらしい。
完全に“面白半分”。
誰かが困る姿を見て、笑っていた。
警察官は静かに言った。
「悪ふざけで済む話じゃありません」
その瞬間、姉はようやく理解したらしい。
本当に怖いのは、偽札そのものじゃない。
“自分は悪くないのに、一瞬で加害者側にされること”だと。
帰り際、最初に疑った店長が頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
でも姉は、ただ苦笑いするしかなかった。
だって、あのレジ前で向けられた視線は、たぶん一生忘れられないから。
最近、“バズれば勝ち”みたいな悪ふざけが増えた。
でも、その裏で普通の人間がどれだけ傷つくか、想像できない人間が本当に増えたと思う。
笑えないイタズラって、こういうことなんだろうなと思った。