休日だったので、家族三人で映画を観に出かけた。
久しぶりの外出で、上映後はそのまま夕食も済ませ、笑いながら家へ帰ってきた。
ところが、マンションの角を曲がった瞬間、私は思わず足を止めた。
自宅の前にパトカーが二台、消防車まで停まっている。
さらに管理会社の人や近所の住民が廊下に集まり、何やら騒然としていた。
「えっ……うちで何かあったの?」
胸が一気に締め付けられた。
警察官が私たちに気付き、すぐに駆け寄ってきた。
「こちらのお宅の方ですね?室内から大きな爆発音がしたという通報がありました。ガス漏れの可能性も考えて確認していました。」
その言葉を聞いた私は頭が真っ白になった。
出かける前にガスの元栓も確認したし、火も全部消してきた。爆発するようなものは何もないはずだった。
警察官と消防隊員に付き添われながら部屋へ入ると、リビングは特に異常はない。しかし、物置代わりに使っていた収納スペースの扉を開けた瞬間、全員が思わず顔をしかめた。
甘ったるい匂いと酸っぱい発酵臭が充満し、床一面には茶色い液体が広がっている。
プラスチック製の収納ケースはフタが内側から吹き飛び、中に入っていたそうめんや缶詰、調味料までベタベタになっていた。
「原因はこれですね。」
消防隊員が指差した先には、破裂したフルーツ缶があった。
缶は完全に裂け、中のシロップが箱の中いっぱいに飛び散っている。
私は呆然としながら、「どうしてこんなところにフルーツ缶が……」とつぶやいた。
すると後ろにいた娘の顔色がみるみる青くなった。
しばらく黙っていた娘は、涙を浮かべながら小さな声で言った。
「……ごめんなさい。私が入れたの。」
話を聞くと、数か月前に祖母からもらったフルーツ缶を食べたくなかった娘は、残したら怒られると思い、人目につかないよう密閉できるプラスチックケースの奥へこっそり隠していたという。
そのことを本人もすっかり忘れてしまっていた。
真夏の暑さで収納スペースの温度は高くなり、密閉された箱の中で缶詰は長期間放置された。
消防隊員は説明してくれた。
「フルーツ缶は糖分や果肉が入っています。缶に傷みや腐食があったり、長期間高温環境に置かれると、内部でガスが発生して内圧が上がり、まれに破裂することがあります。」
幸い、私たち家族は映画を観に出かけていたため、誰一人けがをしなかった。
もし家にいたら、飛び散った缶の破片や勢いよく噴き出した中身で負傷していた可能性もあったという。
娘は何度も「怒られるのが怖かった」と泣きながら謝った。
私は叱りたい気持ちもあったが、それ以上に無事だったことへの安堵が大きかった。
「食べられないなら、正直に言ってくれればよかったんだよ。隠すことの方がずっと危ない。」
そう伝えると、娘は何度もうなずいた。
あの日以来、我が家では「怒られるから隠す」のではなく、「困ったらまず話す」という約束ができた。
そして食品は高温になる場所や密閉容器の中へ長期間放置しないことを、家族全員が改めて心に刻んだのである。
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