土曜の夜、仕事を終えて帰宅したのは22時過ぎだった。いつものようにマンションの駐車場へ車を入れ、自分の契約しているスペースへ向かう。
だが、その瞬間――
「……は?」
思わず声が出た。
私の駐車場に、知らない車が停まっている。
何度も確認した。番号も場所も間違っていない。
そこは間違いなく、私が契約している駐車スペースだった。
「なんで……?」
車は黒っぽい普通の乗用車。見たこともない車だ。
周囲を見回しても、持ち主らしい人はいない。
とりあえず管理会社に電話をかけた。だが――
出ない。
時間を見ると22時過ぎ。土曜の夜だ。
嫌な予感がした。
もう一度かける。やっぱり出ない。
私は車の前でしばらく待った。
「すぐ戻るだけなのかな……」
そう思って10分ほど待ったが、誰も来ない。
このままではどうしようもない。
でも、この車の前後に停めれば通路を塞ぐことになる。他の住民にも迷惑がかかる。
結局私は、少し離れた別の場所へ車を停めに行くことにした。
ただでさえ仕事で疲れていたのに、そこからさらに歩いて帰ることになった。
正直、かなりイライラしていた。
家に戻っても、どうしても納得できない。
私は警察署に電話して相談した。
事情を説明すると、警察はこう言った。
「駐車場はマンションの敷地内ですよね?」
「はい。」
「そうなると、私有地なので警察としては直接の介入は難しいんです。」
やっぱりそうか。
警察は続けて説明した。
「ただし車の名義は確認できます。」
数分後、こう教えてくれた。
・この車は東京の会社名義・今日は土曜夜なので会社と連絡が取れない・警視庁にも問い合わせたが担当部署と繋がらない
つまり――
今すぐは何もできない。
私は思わず聞いた。
「じゃあ、このまま泣き寝入りですか?」
警察は少し困ったような声で言った。
「張り紙などで注意するのは問題ありません。常識の範囲であれば大丈夫です。」
「ただ、個人の電話番号は書かない方がいいですね。」
「明日、管理会社へ連絡して対応してもらってください。」
電話を切ったあと、私は車のところへ戻った。
フロントガラスに紙を挟む。
そこにはこう書いた。
「ここは契約駐車場です。勝手に停めないでください。迷惑しています。」
本当はもっと強い言葉を書きたかった。
でも、逆にトラブルになるのも嫌だった。
私はそのまま家に戻った。
その夜は、正直ほとんど眠れなかった。
「なんで私がこんな目に……」
ただそればかり考えていた。
そして朝。
9時半頃、駐車場を見に行った。
まだ停まっている。
思わず舌打ちした。
だが、その15分後。
再び見に行くと――
車は消えていた。
「逃げた……?」
そう思った。
結局、謝罪も何もないまま終わるのか。
なんだか余計に腹が立った。
そのまま私は仕事へ向かった。
一日中、ずっとモヤモヤしていた。
そして夜。
帰宅して駐車場へ向かうと――
フロントガラスに、紙が貼ってあった。
「……?」
近づいて見る。
そこには手書きでこう書かれていた。
「ここは契約駐車場です。勝手に停めないでください。迷惑します。」
……え?
私は一瞬、意味が分からなかった。
それは――
昨日、私が貼った紙とほぼ同じ内容だった。
ただし違うのは一つだけ。
最後の一行。
「迷惑します。」
謝罪でもなければ、「すみませんでした」でもない。
ただの注意書き。
まるで――
こちらが悪いかのような書き方。
私はしばらくその紙を見つめていた。
昨日、私は警察にも相談し、迷惑をかけないように別の場所へ車を停め、トラブルにならないよう言葉も選んだ。
それなのに。
戻ってきたのは、
たった一枚の紙。
私は思わず小さくつぶやいた。
「……これで終わり?」
紙を見ながら、胸の奥に残ったのは怒りでも安心でもない。
ただ一つ。
どうしても消えない、モヤモヤだった。