盆の前だった。
店内は人であふれていた。
大きなカートが通路をふさぎ、家族連れが肉の前で立ち止まり、レジには長い列。
コストコ特有の、あの少し浮かれた空気。
私もその中にいた。
せっかく人が集まる時期だし、少し見栄えのするものを買って帰ろう。
そう思って、ビーツとキヌアのサラダを手に取った。
色もきれい。
量も多い。
健康そう。
「これなら大人も子どもも食べられるかな」
そんな軽い気持ちだった。
家に帰り、冷蔵庫に入れた。
夜、食卓に出した。
透明な容器を開けると、野菜の匂いがした。
スプーンですくい、皿に移す。
その時だった。
カチッ。
妙な音がした。
食材の音ではない。
硬い。
乾いた音。
私は手を止めた。
皿の上を見る。
キヌアの粒と野菜の中に、小さな透明のカケラがあった。
最初は、硬い野菜の芯かと思った。
でも違う。
指先でつまむと、冷たい。
薄い。
角がある。
ガラスか。
プラスチックか。
どちらにしても、食べ物の中に入っていていいものではない。
一瞬で血の気が引いた。
「待って、これ何?」
家族の箸も止まった。
さっきまで普通の惣菜だったものが、急に危険物に見えた。
私は慌てて容器を確認した。
ラベル。
商品名。
購入日。
賞味期限。
全部写真を撮った。
カケラも捨てずに、白い紙の上に置いた。
小さい。
でも、十分怖い。
もし気づかずに口に入れていたら。
もし子どもが噛んでいたら。
もし喉に引っかかっていたら。
そう考えた瞬間、胃の奥が冷たくなった。
すぐにコストコへ電話した。
返金してほしいからではない。
まず伝えるべきだと思ったからだ。
同じ商品を買った人がいるかもしれない。
盆で人が多い時期だ。
家族で食べる人もいる。
子どもが食べる可能性もある。
だから私は、できるだけ落ち着いて説明した。
「キヌアの惣菜から、ガラスかプラスチックのようなカケラが出てきました」
すると、返ってきた言葉はあまりにも軽かった。
「返金しますね」
私は一瞬、黙った。
いや。
返金の話をしているのではない。
百円玉を落とした話ではない。
食べ物の中から、硬い異物が出てきた話をしている。
私は聞いた。
「他に買った人には確認しないんですか?」
「同じロットの商品は大丈夫なんですか?」
「子どもの口に入ったら危ないと思うんですけど」
電話口の温度は変わらなかった。
「こちらでは分かりかねます」
その瞬間、私の中で何かが静かに切れた。
分かりかねます。
便利な言葉だ。
でも、食品を売っている側がそれを言っていい場面なのか。
私が聞きたかったのは、返金の方法ではない。
危険が広がらないために何をするのか。
そこだった。
なのに、返ってくるのは事務的な言葉ばかり。
「返金します」
「分かりかねます」
まるで、こちらが面倒な客みたいな扱いだった。
私は電話を切ったあと、しばらくキッチンに立っていた。
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