仕事を終えてようやく帰宅し、玄関のドアを開けた瞬間、思わず足が止まった。
目の前には、大きな段ボールがドンと置かれていた。
しかも箱には、黒いマジックで「うんち入り」「うんこ入り」「ドアの前に置いてください」と、信じられないような文字が大きく書かれている。
「……は?」
一瞬、頭が真っ白になった。
誰かの悪質ないたずらなのか。それとも嫌がらせなのか。こんなものを玄関前に置かれたら、誰だって気分が悪い。マンションの管理会社へ連絡しようか、防犯カメラを確認してもらおうか、本気で考えたほどだった。
怒りを抑えながら箱を持ち上げると、宅配便の伝票が貼られていることに気付いた。
「送られてきた荷物?」
そう思って送り主を見ると、私は思わず目を疑った。
そこに書かれていたのは、実家の母の名前だった。
「えっ、お母さん?」
今度は怒りよりも混乱が勝った。
母は昔から節約家で、使えるものは何でも再利用する性格だ。でも、さすがにこんな段ボールを使うとは思えない。
「何を送ってきたんだろう……」
恐る恐るガムテープをはがし、箱を開けてみる。
すると中には、新聞紙で丁寧に包まれたナスやキュウリ、トマト、じゃがいも、実家の畑で採れた玉ねぎ、それに手作りの梅干しや漬物、私の大好きなお菓子までぎっしり詰まっていた。
箱を開けた瞬間、野菜の土の匂いと、どこか懐かしい実家の空気がふわっと広がる。
さっきまで「嫌がらせだ」と怒っていた自分が急に恥ずかしくなった。
すぐに母へ電話をかけると、母は開口一番こう言った。
「届いた?野菜傷んでなかった?」
私は苦笑しながら聞いた。
「それより、あの段ボール何なの?『うんち入り』って大きく書いてあったけど!」
すると母は大笑いしながら答えた。
「あー、それね!近所の人がくれた空き箱なのよ。丈夫だったから使っただけ。箱なんて誰も見ないと思ってたわ!」
どうやら猫砂か何かが入っていた箱を、そのまま再利用したらしい。
「中身が無事ならそれでいいでしょ?」
その一言に、思わず私も笑ってしまった。
玄関を開けた瞬間は本気で怒りが込み上げ、「誰がこんなことを!」と犯人探しまで考えていたのに、最後には母らしい大雑把さに肩の力が抜けた。
人はつい見た目だけで判断してしまう。
でも、その怪しすぎる段ボールの中には、実家で大切に育てた野菜と、「ちゃんとご飯食べてる?」という母の気持ちがぎっしり詰まっていた。
あの日以来、私は宅配便の箱だけで中身を決めつけることはなくなった。そして今でも実家から荷物が届くたびに、「今度はどんな段ボールで来るんだろう」と少しだけ楽しみにしている。
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