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足の悪い母に「そんな近距離でタクシー?歩けばいいでしょ」と吐き捨てた運転手、その一言で空気が凍りついたあの瞬間
2026/02/12

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「そんな近距離でタクシー?歩けばいいでしょ。」

耳元で吐き捨てるように言われたその一言で、空気が一瞬にして凍りついた。
後部座席のドアを閉めたばかりの母の肩が、びくりと小さく跳ねるのが見えた。

駅から実家までは、たった600メートル。
歩けば十分もかからない距離だ。
でも、母はもう長い距離を歩けない。足を悪くしてからは、坂道を数分進むだけでも息が上がる。

だから私は、迷わずタクシーを拾った。

それなのに――。

運転手はバックミラー越しに私たちを見たまま、ため息をついた。
「はぁ……ワンメーターかよ」
小さく呟いたつもりなのかもしれない。でも、はっきり聞こえた。

母が慌てて頭を下げる。

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「近くてすみません……足が悪くて……」

その声は、いつものように小さく、遠慮がちで、申し訳なさそうだった。
その姿を見た瞬間、胸の奥がじわっと熱くなる。

なぜ、謝る必要があるのだろう。

車は乱暴に発進した。
アクセルを強く踏み込んだのか、体がぐっと後ろに押しつけられる。

次の交差点で、今度は急ブレーキ。
母の体が前へ投げ出されそうになり、シートベルトが肩に食い込んだ。

「っ……」

小さな息を呑む音が聞こえる。
母は何も言わない。ただ、両手でシートの縁をぎゅっと掴んでいた。

その指先が、白くなるほど力が入っている。

運転手は何も言わない。
ミラー越しにちらりとこちらを見て、またため息をつく。

「近い客ってさ、一番面倒なんだよね」

ぼそりと、吐き出すように言った。

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誰に向けた言葉かなんて、考えるまでもない。

母がさらに小さくなる。
視線を膝に落とし、かすかに震える声で言った。

「近いと……いつも嫌な顔されるの……」

その一言が、胸に深く突き刺さった。

――“いつも”。

つまり、これが初めてじゃない。

母は、こうして何度も、何度も、同じ思いをしてきたのだ。

私は何も言わなかった。

ただ静かにスマートフォンを取り出し、画面を伏せたまま録音ボタンを押した。

車はわざとらしいほど乱暴に走る。
スピードを出しては急に減速し、カーブではハンドルを大きく切る。

母の体が左右に揺れるたび、シートがきしむ音がした。

それでも母は、何も言わない。
ただ小さく、何度も、何度も、頭を下げている。

「すみません……すみません……」

その姿を見ているうちに、怒りは不思議なほど静かになっていった。
熱ではなく、冷たい氷のように固まっていく。

車は実家の前で乱暴に止まった。
メーターが小さく鳴る。

運転手は振り向きもせず、低い声で言った。

「500円。」

ただ、それだけ。
そこには客への言葉も、感情も、何もなかった。

私は財布を取り出しながら、静かに口を開いた。

「大丈夫です。」

その一言に、運転手の手がわずかに止まる。

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私は続けた。

「さっきの言葉も、運転の様子も――全部、録音してます。」

車内の空気が、ぴたりと止まった。

運転手の肩が、目に見えて固まる。
バックミラーの中の目が、大きく揺れた。

私はさらに淡々と言った。

「車番も、記録してあります。」

一瞬、時間が止まったかのようだった。

運転手は何も言えない。
口を開きかけて、閉じ、また開きかけて――結局、言葉にならない。

その表情には、さっきまでの苛立ちも、見下すような色も、もう残っていなかった。

ただ、凍りついたような沈黙だけがあった。

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