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「ここ日本ですよね?」警察の前で日の丸に黒いバツ印、通行人が黙った直後に会社員が前へ...
2026/04/29

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土曜の午後、駅前を通ったときだった。

いつもより人の流れが遅い。

見ると、歩道の端に警察官が並んでいた。

何か揉めているのかと思って視線を向けた瞬間、足が止まった。

日の丸の上に、黒いバツ印。

しかも一枚じゃない。

手に持った小さな旗にも、大きめの旗にも、同じように黒い線が入っていた。

最初は見間違いだと思った。

でも違った。

旗を持った数人が、駅前でそれを掲げていた。

何か主張があるのは分かる。

言いたいことがあるなら、言えばいい。

でも、国旗にバツをつけて、人通りの多い場所で見せつけるように掲げる。

そのやり方を見た瞬間、ただ不快だった。

周りの人も同じだったと思う。

スマホを向ける人。

眉をひそめる人。

でも、誰もすぐには声を出さない。

関わったら面倒になる。

その空気があった。

私も正直、そのまま通り過ぎようとした。

そのとき、旗を持っていた一人が、こちら側に見えるようにさらに腕を上げた。

近くの年配男性が小さく言った。

「そこまでやる必要あるのかね」

すると相手側の一人が、笑うように返した。

「見たくないなら見るなよ」

その言い方で、空気が変わった。

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旗の問題だけじゃなくなった。

嫌な顔をした通行人を、わざと煽ったように見えた。

そのとき、私の前にいたスーツ姿の男性が振り返った。

四十代くらい。

手にはコンビニの袋と書類バッグ。

どこにでもいる普通の会社員という感じだった。

男性は警察官の位置を確認してから、少しだけ前に出た。

そして、静かに言った。

「それ、国旗にやることですか?」

声は大きくない。

でも、周りが黙っていたからよく通った。

旗を持っていた人がすぐに返す。

「表現の自由だろ」

男性は表情を変えずに言った。

「自由を言うなら、言葉で言えばいい。国旗にバツをつけて、通行人を不快にさせる必要はありますか」

そこで、近くにいた女性が続いた。

「子どもも通る場所ですよ」

別の男性も言った。

「主張があるなら看板に書けばいい。旗をそういう使い方にするのは違う」

相手側は声を大きくした。

「こっちは訴えてるんだよ」

「嫌なら通るな」

でも、そのたびに周りの目は冷めていった。

警察官がすぐに間に入り、落ち着いた声で言った。

「通行の妨げにならないよう、こちら側へ下がってください」

旗を持った人たちは不満そうにしながらも、少しずつ後ろへ下がった。

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さっきまで歩道側に向けて高く掲げていた旗が、建物のほうへ寄る。

黒いバツ印も、通りから見えにくくなった。

その瞬間、年配の女性がスーツの男性に声をかけた。

「よく言ってくださいました」

男性は少しだけ会釈して言った。

「普通に嫌だっただけです」

その一言が、いちばん強かった。

怒鳴らない。

詰め寄らない。

でも、違うものは違うと言う。

駅へ向かいながら、私はもう一度だけ振り返った。

黒いバツ印の旗は、さっきより低い位置にあった。

大きな声を出していた人たちより、静かに一言を返した会社員のほうが、ずっと堂々として見えた。

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