朝のニュースを見ていて、手が止まった。
画面に出てきたのはこんなニュースだった。
「17歳の女子高校生、米5キロを万引きして逮捕」
最初は、よくある万引きのニュースだと思った。
でも理由を聞いて、胸が重くなった。
「家に食べ物がなく、空腹だった」
米5キロ。
たったそれだけで、高校生が警察に捕まる。
ニュースを見ながら、なんとも言えない気持ちになった。
日本って、こんな国だったのか。
コンビニには食べ物が山ほどある。
スーパーでは弁当が大量に廃棄されている。
それなのに、
高校生が腹を空かせて米を盗む。
なんだかすごく悲しくなった。
私はラーメン屋をやっている。
大きな店じゃない。
住宅街にある、普通の店だ。
でも、もし本当にお腹を空かせた子供がいるなら——
ラーメンくらい、出してやれる。
そう思って、私は紙を一枚用意した。
マジックでこう書いた。
「お父さんお母さんがいなくて
おなかすいたら
うちのラーメン食べにきてね
いつでも無料だからね
子供だけです
店主」
それを店の入口のガラスに貼った。
別にSNSに載せるつもりもなかった。
ただ、
本当に困っている子供がいたら来ればいい
それだけだった。
その日の昼。
一人の男が店に入ってきた。
40代くらいの客だった。
ラーメンを注文して、食べ終わったあと、
店の入口に貼ってある紙をじっと見ていた。
そして振り返って、私に言った。
「これ、どういう意味?」
私は言った。
「そのままですよ」
男は紙を指さした。
「子供だけ?」
「なんで大人はダメなの?」
私は少し驚いた。
正直、そんな質問が来ると思っていなかった。
「いや……子供が困ってたら、って話です」
すると男は笑った。
でも、その笑い方は少し嫌な感じだった。
「じゃあさ」
「大人は腹減らないの?」
一瞬、言葉に詰まった。
男はさらに続けた。
「大人だって困ってる人いるだろ」
「なんで子供だけ?」
周りの客も、少しこちらを見ていた。
私は正直に言った。
「全部は無理だからです」
「店も商売なんで」
すると男は鼻で笑った。
「ほらな」
「結局、偽善だろ」
その言葉を聞いた瞬間、
正直、少し腹が立った。
偽善?
私はただ、
腹を空かせた子供がいたらラーメン出す
そう思っただけだ。
男はさらに言った。
「こういうのさ」
「いい人アピールって言うんだよ」
「SNSとかに載せるんだろ?」
私は答えた。
「別に載せてませんけど」
すると男は黙った。
でもまだ納得していない顔だった。
しばらくして、隣の席の常連のおじさんが口を開いた。
「兄ちゃん」
男の方を見て言った。
「この店主、前からこういう人だよ」
「宣伝とかじゃねえよ」
「困ってる人にラーメン出すくらい、いいじゃねえか」
男は何も言わなかった。
少し気まずそうな顔をして、席を立った。
会計を済ませて、店を出ていった。
店内が静かになった。
常連のおじさんが笑いながら言った。
「いいことすると、文句言う奴も出てくるんだな」
私は苦笑いした。
その日の夜、
店を閉める前に、もう一度貼り紙を見た。
「お父さんお母さんがいなくて
おなかすいたら
うちのラーメン食べにきてね
いつでも無料だからね
子供だけです」
正直、少し考えた。
この紙を貼るのは、
余計なことだったのかもしれない。
でも——
もし明日、
本当に腹を空かせた子供が店に来たら。
私はやっぱり、
ラーメンを出すと思う。
善意って、
簡単に褒められるものじゃない。
むしろ、
疑われたり、叩かれたりする。
でもそれでも、
誰か一人でも救えるなら、
やる意味はあると思う。
ただ一つだけ、
聞いてみたい。
もしあなたがこの店にいたら、
あの貼り紙を見て——
どう思いますか?