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「財布置いていくんで戻ります」自称29歳の男が空財布だけ残して食い逃げ…誠実そうな顔で店を騙したので、防犯カメラ映像を警察に提出した話
2026/06/25

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その人は、最初から妙に感じがよかった。

店に入ってきた時も、静かに頭を下げた。

「一人です」

そう言って、奥の席に座った。

年齢は二十九歳だと言っていた。

話し方も丁寧。

声も落ち着いている。

服装も普通。

注文の仕方も迷惑な感じはまったくなかった。

私はその時、何も疑っていなかった。

むしろ、感じのいいお客さんだと思っていた。

料理を運ぶと、その人は小さく笑って、

「ありがとうございます」

と言った。

箸を取る手つきも自然だった。

スマホを少し見て、料理を食べる。

水を飲む。

時々、店内を見回す。

どこにでもいる普通のお客さん。

本当に、それだけだった。

会計の時間になるまでは。

食事を終えたその人は、レジの方へ来た。

そして、少し困ったような顔をした。

「あ、すみません。現金が足りないみたいで」

私は一瞬、身構えた。

こういうことは、たまにある。

財布を忘れた。

カードが使えない。

電子マネーが残高不足。

珍しくはない。

だから、こちらも最初から疑ったりはしない。

その人は続けた。

「近くでお金をおろしてきます。財布、ここに置いていきますので」

そう言って、使い古された財布をカウンターに置いた。

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財布を置いていく。

その行動が、妙に誠実に見えた。

逃げるつもりなら、財布なんて置いていかない。

そう思ってしまった。

私は少し迷ったが、了承した。

「では、戻られたらお会計お願いします」

その人はまた丁寧に頭を下げた。

「すぐ戻ります」

そう言って、店を出ていった。

ドアが閉まる。

私はカウンターの上の財布を見た。

古い財布だった。

角は擦れている。

表面もくたびれている。

長く使っているものに見えた。

だから余計に安心してしまった。

本当に戻るつもりなのだろう、と。

五分。

十分。

十五分。

戻ってこない。

最初は、銀行が混んでいるのかと思った。

近くのATMで手間取っているのかもしれない。

財布を置いていったのだから、まさか逃げるはずがない。

そう自分に言い聞かせた。

でも、三十分を過ぎた頃、店の空気が変わった。

スタッフが私を見る。

私も時計を見る。

財布は同じ場所にある。

持ち主だけが、いない。

嫌な予感が、少しずつ形になっていった。

私は財布を開けるべきか迷った。

お客様のものだ。

勝手に触るのは気が引ける。

でも、すでに会計は済んでいない。

本人は戻らない。

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緊急の確認ということで、慎重に開けた。

中には、何も入っていなかった。

本当に何も。

現金もない。

カードもない。

身分証らしきものもない。

レシートすらほとんどない。

空っぽだった。

私は思わず笑ってしまった。

もちろん、楽しい笑いではない。

あまりにも見事だったからだ。

財布を置いていくことで信用させる。

でも、その財布には価値のあるものが入っていない。

つまり、最初から置いていくための財布。

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