昼飯を食べに行こうと思って、駐車場に向かったときだった。
自分の車を見た瞬間、足が止まった。
「……は?」
後ろのバンパーが、ありえない方向にめくれていた。
フェンダーは割れ、タイヤ周りのパーツは外れかけている。
しかも、駐車場のポールまで曲がっていた。
明らかに、誰かにぶつけられている。
一瞬、頭が真っ白になった。
「いやいやいや…」
思わず車の周りをぐるっと見た。
でも当然、ぶつけた車はもういない。
完全な 当て逃げ だった。
その場で警察に電話した。
しばらくして警察が来て、状況を確認する。
警察官が言った。
「この駐車場、防犯カメラありますね」
管理会社に連絡して、映像を確認することになった。
数時間後、警察から電話が来た。
「映像、確認できました」
そして言われた一言。
「相手の車、映ってます」
翌日、警察署でその映像を見せてもらった。
そこには、はっきり映っていた。
白い軽自動車がバックで駐車しようとしている。
次の瞬間――
ドンッ
完全に私の車の後ろにぶつかった。
しかも、かなり強い。
そのまま軽く前に出て止まる。
そして――
運転席のドアが開いた。
中から降りてきたのは、70代くらいの老人だった。
老人は私の車の後ろを見ている。
壊れたバンパーを、しっかり確認している。
そして数秒後。
車に戻った。
そのまま――
ゆっくり走って、駐車場から出ていった。
完全な当て逃げだった。
警察が車のナンバーを確認し、すぐに相手を特定した。
数日後、相手の家族も含めて話し合いになった。
現れたのは、映像のままの老人だった。
最初の一言がこれだった。
「ぶつけた覚えはない」
私は思わず言った。
「いや、映像ありますよ」
老人は首を振った。
「気づかなかった」
「知らなかった」
さらに言った。
「逃げたつもりはない」
その瞬間、警察が言った。
「ですが」
警察官がタブレットを出した。
そして映像を再生した。
老人が車から降りて、私の車を見ている場面。
完全に確認している。
警察官が静かに言った。
「確認されていますよね」
老人は黙った。
さらに警察が言った。
「そのあと、そのまま出て行かれてます」
部屋の空気が一気に重くなった。
老人の家族が慌てて言った。
「すみません…」
そして、家族が老人に言った。
「ちゃんと謝りなさい」
老人はしばらく黙っていた。
そして小さく言った。
「……すみませんでした」
そのあと、話は一気に進んだ。
修理費は 全額負担。
そして家族からもう一つ提案が出た。
「父は免許を返納します」
正直、少し驚いた。
警察も確認した。
「本当に返納されるんですね?」
家族は深く頭を下げた。
「はい」
老人は黙ったままだった。
私はしばらく考えた。
正直、もっと追い込むこともできた。
当て逃げは立派な犯罪だ。
でも最後に言った。
「修理費を払ってもらえれば、それでいいです」
警察もその場で確認した。
「では、この件は示談という形で」
その後、老人は本当に免許を返納したらしい。
そして車の修理費は、全額支払われた。
後日、修理工場から連絡が来た。
「かなりの金額になります」
私は苦笑いした。
まあ、当然だ。
ただ一つだけ言えることがある。
車をぶつけたとき、
絶対に逃げるな。
防犯カメラは、思っている以上に見ている。
そして何より、
逃げた瞬間に、
ただの事故が 犯罪になる。