買い物を終えて駐車場に戻ったときだった。
遠くから見て、思わず足が止まった。
「……なんだこれ」
私の車の横に、黒いラングラーがぴったり貼り付くように停まっている。
本当に「ぴったり」だった。
しかも、駐車場はガラガラ。
周りには空きスペースがいくらでもある。
なのに、わざわざ私の車の横に。
しかも距離が異常に近い。
ドアを開けるスペースがほとんどない。
「トナラーLv100かよ…」
思わず呟いた。
私の車は灰色のジムニー。
その横に、巨大なラングラー。
まるで親子みたいなサイズ差で、ぴったり寄せられている。
どう見ても普通じゃない停め方だった。
「いやいや、これどうやって乗るんだよ…」
運転席側のドアを開けようとしてみる。
ほぼ開かない。
体を横にして、なんとか隙間から入るしかない。
完全に嫌がらせレベルだった。
とりあえず写真を撮った。
「戻ってきたら文句言うか…」
そう思って、車の横で少し待つことにした。
数分後。
遠くから、キーのロック音が聞こえた。
振り向くと、一人の男が歩いてきた。
40代くらいだろうか。
ラングラーのキーを持っている。
どうやら、この車の持ち主らしい。
男は私を見るなり、眉をひそめた。
そして、いきなり言った。
「そこ、俺いつも停めてる場所なんだけど」
一瞬、意味が分からなかった。
「……え?」
男は腕を組んで言った。
「そこ、俺の定位置なんだよ」
私は周りを見た。
ここはショッピングモールの駐車場。
完全な 共用駐車場 だ。
誰の場所でもない。
私は言った。
「いや、ここ共用ですよね?」
すると男は笑った。
「いやいや、みんな分かってるから」
「いつも俺ここ停めてるし」
完全に意味不明だった。
私は言った。
「いや、それでこの停め方なんですか?」
男は肩をすくめた。
「だって俺の場所だし」
「空いてても、そこ停めるの普通でしょ」
私は思わず笑ってしまった。
「いや、普通じゃないですよ」
その瞬間、後ろから声がした。
「それは無理あるな」
振り向くと、隣の車の人が立っていた。
どうやら、状況を見ていたらしい。
さらに別の人も言った。
「共用駐車場ですよここ」
「指定じゃないでしょ?」
男の顔が少し変わった。
「いやでも、いつも俺停めてるし…」
すると別の人が言った。
「だからって、こんな寄せ方します?」
「ドア開かないじゃん」
周りの空気が変わっていった。
男は明らかに焦り始めた。
私は言った。
「しかも、空きいっぱいありますよ」
周りを指差した。
本当に、ガラガラだった。
男は何も言えなくなった。
数秒沈黙。
そして小さく言った。
「……別にいいだろ」
その瞬間、後ろの人が言った。
「いや良くないでしょ」
別の人も笑った。
「そんなマイルール初めて聞いた」
完全に流れが変わった。
男はラングラーに乗り込んだ。
そしてエンジンをかけた。
無言で車を出した。
空いているスペースに、停め直した。
さっきまでの勢いは、完全に消えていた。
その様子を見て、後ろの人が笑った。
「トナラー撃退ですね」
私は苦笑いした。
正直、怒る気にもならなかった。
ただ一つだけ思った。
駐車場には、
「俺の場所」なんてものはない。
あるのはただ一つ。
先に停めた人の場所だけだ。