最初は、ほんの小さな違和感だった。
グリーン車に座って、しばらくしてから。
背中に、何かが当たる。
軽く、押されるような感覚。
最初は気のせいだと思った。
でも、また来る。
もう一度。
さっきより、少し強い。
振り返ろうかと思ったけど、
そのまま様子を見ることにした。
たまたまかもしれない。
そう思ったからだ。
でも——
違った。
何度も、何度も同じことが繰り返される。
一定のリズムで、
ぐい、ぐい、と背中に圧がかかる。
さすがにおかしいと思って、
少しだけ振り返った。
そこで見えたのは、
後ろの席の女性だった。
靴を脱いでいる。
そして——
裸足のまま、足を前の座席に乗せていた。
その足が、
ちょうど私の背もたれに当たっている。
一瞬、言葉が出なかった。
……いや、無理だろ。
正直、そう思った。
でも最初は我慢した。
グリーン車だし、
変なトラブルは避けたい。
そう思ったからだ。
でも、やめない。
むしろ、どんどん足を伸ばしてくる。
しかも、じわっと押し付けるような感じ。
正直、少し湿った感じまで伝わってきた。
さすがに無理だと思った。
私は一度、振り返って言った。
「すみません、当たってるんですが」
できるだけ落ち着いた声で。
女性は一瞬こちらを見た。
でも——
何も言わない。
そして、そのまま足を戻さない。
……は?
私はもう一度言った。
「座席に当たってます」
その瞬間、
女性は明らかに不機嫌な顔をした。
そして、ため息をつくように言った。
「楽なんだからいいじゃん」
その一言で、
何かが切れた。
いや、いいわけないだろ。
でも私は、すぐには言い返さなかった。
一度、前を向いた。
少しだけ、呼吸を整えた。
でも——
次の瞬間だった。
ドン、と背もたれが強く揺れた。
明らかに、
さっきより強く蹴られた。
偶然じゃない。
完全に、わざとだった。
その瞬間、
完全にスイッチが入った。
私はそのまま振り返った。
相手の目を見る。
そして、はっきりと言った。
「それ、迷惑なんですけど」
声は、少し大きかった。
周りに聞こえるくらいに。
空気が変わる。
近くの人が顔を上げる。
スマホを見ていた人も、
ちらっとこちらを見る。
女性は一瞬、言葉に詰まった。
でも、まだ引かない。
「そんな大げさな…」
と、小さく言う。
その態度に、さらにイラっとした。
私は続けて言った。
「さっきからずっと当たってます」
「公共の場ですよね?」
その瞬間だった。
後ろの別の席から声が上がった。
「さっきから気になってました」
一人じゃなかった。
「普通に迷惑ですよ」
また別の声。
「グリーン車でそれはちょっと…」
一気に空気が動いた。
さっきまでの“誰も言わない空気”が、
一瞬で崩れた。
女性の表情が変わる。
視線が泳ぐ。
さっきまでの強気が、
一気に消えた。
完全に、流れが変わった。
女性はしばらく黙っていた。
そして、小さく舌打ちして、
ようやく足を下ろした。
そのあと、
ぼそっと言った。
「……すみません」
それで終わりだった。
本当に、それだけだった。
でも——
あの一瞬で全部変わった。
私はその場で、少しだけ息を吐いた。
正直、最初は我慢するつもりだった。
トラブルは面倒だし、
関わらない方が楽だと思っていた。
でも、
あのまま何も言わなかったら、
ずっと続いていたと思う。
そして思った。
こういうのは、
誰か一人が言うだけで変わる。
空気は、
動く。
そして——
見ている人は、
ちゃんと見ている。
引用元:https://twitter.com/baypinar35/status/2038591250748875060,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]