「250円持たせてファミチキを買いに行かせたら、“お金だけ取られて何ももらってない”って娘が戻ってきた。」
最初は、聞き間違いかと思った。
でも娘は、少し戸惑いながら、もう一度同じことを言った。
「お釣りも、レシートも、もらってない…」
その声は小さくて、どこか自信がないように聞こえた。
それが余計に引っかかった。
「ちゃんと渡したのに信じてもらえなかったのかな」
そんな不安が、そのまま表情に出ているように見えた。
正直、その瞬間にただ事じゃないと分かった。
すぐに店に戻って事情を説明すると、レジにいた店員は面倒そうにこちらを見て、あっさりと言った。
「渡してますよ」
「受け取ってないなら、そっちの問題ですよね」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
あまりにも軽く、当然のように言われたからだ。
は?と思った。
その横で、娘が小さな声で言った。
「ちゃんとお金、出したよ…」
でもその声は、店員には届いていないかのようだった。
こちらを見ようともせず、そのまま次の客を呼ぼうとしていた。
まるで、もう話は終わりだと言わんばかりに。
その瞬間、娘が堪えていたものが崩れた。
「わたし、うそついてない…!」
涙をこぼしながら、必死にそう言った。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中で何かが切り替わった。
――ああ、もういいや。
私は一歩前に出て、落ち着いた声で言った。
「店長を呼んでください。落とし物があるので、防犯カメラ確認します。」
その一言で、空気が変わった。
さっきまで面倒そうにしていた店員の表情が、一瞬で崩れた。
明らかに動揺して、「いえ、その…」と口ごもる。
「もしかしたら渡し忘れかもしれません」
「確認しますので…」
さっきとはまるで別人みたいな態度だった。
でも、もう遅いと思った。
私は同じ言葉を、もう一度だけはっきり言った。
「店長を呼んでください。防犯カメラ、確認します。」
ちょうどそのタイミングで、奥から店長が出てきた。
事情を簡単に説明すると、店長はすぐに娘の方を見て、深く頭を下げた。
そして店員にも状況を確認し、そのまま防犯カメラをチェックする流れになった。
結果は、すぐに分かった。
お金は受け取っている。
でも商品も、お釣りも、渡されていなかった。
店長と店員は、揃って頭を下げた。
「大変申し訳ありませんでした」
「返金と、改めて商品をご用意させていただきます」
「それと、お詫びとして――」
そこまで聞いて、私はその言葉を止めた。
「そういうのはいいです。」
自分でも少し驚くくらい、冷静な声だった。
娘の手をそっと握りながら、ゆっくり言った。
「それで、この子の気持ちは戻りますか?」
店内の空気が、一瞬止まった。
さっきまで当たり前のように流れていた時間が、急に静かになった気がした。
「嘘つきみたいに扱われて、怖い思いして、それでも何も言えなくて」
私は店員の方を見た。
「それ、なかったことにできますか?」
店員は何も言えなかった。
ただ、俯いたまま動かなかった。
私は最後に、一言だけ伝えた。
「子どもを軽く見るの、本当にやめた方がいいですよ。」
そのまま娘の手を引いて店を出た。
外に出たあと、娘はまだ少し涙を残していたけど、さっきよりも落ち着いた顔をしていた。
「ちゃんと言ってくれてありがとう」と小さく言った時、胸の奥に残っていたものが少しだけ軽くなった気がした。
正直、悔しさは消えなかった。
でも、あのまま何も言わずに終わっていたら、もっと後悔していたと思う。
あの時、声を上げてよかった。
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