店の前の私有地に、
同じ車が何度も無断駐車してきていた。
最初は、本当に偶然だと思った。
たまたま停めただけ。
すぐに出るだろう。
そう思っていた。
でも違った。
次の日も、その次の日も。
同じ時間帯、同じ場所。
完全に“分かっていて停めている”。
最初の一回は、普通に声をかけた。
「ここ私有地なんで、停めないでもらえますか?」
相手は軽く会釈して、
すぐに車を出した。
それで終わると思っていた。
でも、終わらなかった。
また来た。
同じ車。
私はもう一度声をかけた。
すると、少し面倒くさそうな顔で言われた。
「ちょっとくらいいいでしょ」
その言い方に、違和感が残った。
でもその時は、深く追及しなかった。
そして三回目。
今度は、完全に無視だった。
何も言わずに停めて、
そのまま店の前を通り過ぎていく。
私は思わず言った。
「何度も困るんですけど」
すると振り返って、
ため息混じりに言われた。
「別に誰も困ってないでしょ」
その瞬間、
胸の奥がざわついた。
いや、困ってるから言ってるんだけど。
でも、その時もまだ抑えた。
トラブルを大きくしたくなかったからだ。
でも——
何も変わらなかった。
むしろ、回数が増えた。
注意しても、同じ。
そのたびに、
あの軽い一言。
「ちょっとくらいいいでしょ」
その無神経さが、
一番腹立たしかった。
そして、決めた。
次に来たら、もう終わりにする。
見逃さない。
そう決めた。
そしてその日——
同じ車が、また当たり前みたいに停まっていた。
私はもう声をかけなかった。
そのままスマホを取り出して、ナンバーを撮った。
一歩だけ近づいて、静かに言う。
「ナンバー、控えてます」
相手がこちらを見る。
でも、まだ強がる。
「だから何?」
——その一言で、決めた。
私はそのまま電話をかけた。
「すみません、見慣れない車が停まっていて——」
一拍置いて、はっきり言う。
「運転手が見当たらないんです」
相手の表情が、そこで止まった。
そして、さらに続けた。
「盗難車の可能性もあるかもしれません」
その瞬間——
空気が、完全にひっくり返った。
さっきまでの余裕が、
一気に消える。
「ちょ、ちょっと待って」
声のトーンが変わる。
明らかに焦っている。
私は電話を切らずに言った。
「確認お願いできますか」
視線は外さない。
数秒の沈黙。
そして——
相手は何も言わずに、
慌てて車に戻った。
ドアを閉める音。
エンジンがかかる。
そのまま、
何も言わずに走り去った。
私はスマホを下ろして、
静かに息を吐いた。
正直、
もっと早くやればよかったと思った。
我慢しても、
相手は変わらない。
むしろ、
どんどん調子に乗る。
そして思った。
こういうのは、
最初で止めないといけない。
遠慮した方が、
損をする。
あの日以来、
あの車は一度も来ていない。
たぶん——
やっと理解したんだと思う。
ここは、
「ちょっとくらい」で済む場所じゃないって。
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