玄関のドアが開いた瞬間、
いつもと違う空気を感じた。
子どもが、何も言わずに入ってくる。
顔を見たら、すぐ分かった。
泣いたあとだった。
私は何も言わずに見ていた。
すると子どもは、ランドセルを下ろして、
中からそれを取り出した。
水筒だった。
でも——
原形をとどめていなかった。
ぐしゃぐしゃに潰れていて、
明らかに“踏まれた”跡が残っている。
一瞬、意味が分からなかった。
「どうしたの?」
そう聞くと、子どもは少しだけ黙ってから言った。
「……踏まれた」
誰に?と聞くと、
少し間を置いて、
名前を言った。
その瞬間、だいたい察した。
正直、思い当たる子だった。
前から少しトラブルがあった子。
でも今回のは違う。
私は続けて聞いた。
「なんで?」
子どもは小さな声で言った。
「いいの使ってるからって…」
その一言で、
全部つながった。
気に入らないから壊した。
ただそれだけの理由。
しかも、
その場で踏みつけている。
これはもう事故じゃない。
完全に“故意”。
しかも、言葉付き。
正直、頭にきた。
ただ物を壊されたことじゃない。
理由があまりにも幼くて、
そして、はっきりとした“悪意”だった。
「見てた人は?」
そう聞くと、
「いたけど…」
「誰も何も言わなかった」
その瞬間、胸の奥が重くなった。
教室で、
目の前で壊されて、
誰も止めない。
それが一番嫌だった。
私はその場で決めた。
これは、放っておけない。
次の日、
学校の後に相手の家に行った。
インターホンを押す。
出てきたのは母親だった。
私は迷わず言った。
「お宅のお子さんが、うちの子の水筒を故意に踏んで壊しました」
一瞬、表情が止まる。
でもすぐに、
「え?そんなことないと思いますけど…」
と返してきた。
想定通りだった。
私はそのまま言った。
「不注意じゃありません」
「“いいの使うな”って言って踏んでます」
空気が少し変わる。
でもまだ引かない。
「子どもの言うことですし…」
その一言で、
完全にスイッチが入った。
私ははっきり言った。
「それ、いじめですよね?」
「嫉妬で物壊すって、普通じゃないですよね?」
相手が黙る。
視線が揺れる。
私は続けた。
「物は弁償すれば済むかもしれません」
「でも、このままにするなら」
少し間を置く。
「学校に正式に報告します」
「必要なら教育委員会にも相談します」
その瞬間、
完全に空気が変わった。
さっきまでの軽さが消える。
相手の顔が固まる。
そしてようやく言った。
「……確認します」
そのあと、
子ども本人が出てきた。
最初は下を向いていた。
でも問い詰めると、小さく言った。
「……踏んだ」
理由も、そのまま。
「いいの持ってたから」
私は静かに言った。
「うちの子、何かした?」
首を横に振る。
それで十分だった。
私は最後に言った。
「原価で弁償してください」
「それと、本人からちゃんと謝らせてください」
相手の親は何も言い返せなかった。
その場で謝罪と弁償が決まった。
帰り道、
少しだけ息を吐いた。
正直、スッキリしたわけじゃない。
でも——
あのまま何もしなかったら、
もっと後悔していたと思う。
子どもは、
何も言わなかったけど、
少しだけ安心した顔をしていた。
それを見て思った。
こういうのは、
最初で止めないといけない。
これはただのケンカじゃない。
ちゃんと線を引くべきことだと思った。
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