「店の前に、“お腹がすいたら無料で食べに来ていい”って紙を貼ってる。」
これ、ずっと外してない。
理由は一つ。
——「万引きで捕まえた17歳に“警察呼ぶぞ”と言った瞬間、返ってきた一言で全部止まった。」
「……ばあちゃんが、もう餓えそうなんです」
その一言だけだった。
冬の夜、閉店前。
リュックの中には、5kgの米。
正直、その場では呆れていた。
でも、その言葉を聞いた瞬間——
何も言えなくなった。
そのあと警察に連絡して、親にも電話を入れてもらった。
でも返ってきたのは、
「そちらで好きにしてください」
その一言のあと、店の中はしばらく静かだった。
誰も何も言わなかった。
さっきまで「万引き」という言葉で片付けようとしていた空気が、
そのまま止まってしまったみたいだった。
私はその子を見た。
細くて、制服も少しよれていて、
顔色も良くなかった。
ただ立っているだけなのに、
どこか崩れそうに見えた。
警察が来て、状況を確認する。
形式通りのやり取りが始まる。
でもその子は、ほとんど何も話さなかった。
うつむいたまま、
ただ小さく「すみません」と繰り返していた。
さっきの一言以外、
何も言わなかった。
警察が聞いた。
「なんで盗んだ?」
少し間があって、
また、あの子は同じことを言った。
「……ばあちゃんが、もう餓えそうなんです」
それ以上はなかった。
言い訳も、
ごまかしも、
なかった。
あとで分かった。
父親は亡くなっていて、
母親はもう別の家庭に行っていた。
頼れる人はいなかった。
家には、動けない祖母が一人。
その子は、
自分は一日一食で我慢して、
祖母に食べさせていたらしい。
でもその日、
ついに何もなくなった。
だから、
一番安くて、
一番腹にたまるものを選んだ。
それが、
5kgの米だった。
私はしばらく何も言えなかった。
万引きはいけない。
それは分かってる。
でも——
それだけで終わらせていい話じゃないと思った。
私は警察に言った。
「今回は、自分が対応します」
そのまま、
米の代金を自分で払った。
それだけじゃ足りないと思って、
油と、インスタント食品も袋に入れた。
その子は何度も頭を下げていた。
声にならないくらい、泣いていた。
その後、地域にも連絡が回って、
支援が入ることになった。
正直、あの日のことは今でも忘れられない。
だから、
店の前にあの紙を貼った。
「お腹がすいたら、うちに来ていい」
万引きしなくても、
入って来られる場所を作りたかった。
本当に困っている人は、
助けてほしいって言えない。
あの子が言った一言は、
今でも頭から離れない。
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