歌舞伎町の店に入ったのは、仕事終わりの夜だった。
正直、ただ餃子が食べたかっただけだ。
カウンターに座って、何も考えずに注文した。
しばらくして出てきた一皿目。
見た目は普通だった。
でも、一口食べた瞬間、違和感が走った。
——ぬるい。
中まで熱が通っていない。
肉の中心が、明らかに生っぽい。
「…あれ?」
一瞬迷ったけど、そのまま飲み込む気にはなれなかった。
店員を呼ぶ。
「すみません、これちょっと火通ってない気がするんですが」
店員は皿を見て、軽く頷いた。
「あー…じゃあ作り直します」
謝罪はなかった。
でも、その時はそれで十分だと思った。
ミスなんて、どこにでもある。
数分後、二皿目が出てきた。
「お待たせしました」
今度こそ大丈夫だろうと思って箸を入れる。
——でも。
同じだった。
むしろ、さっきよりもひどい。
中がほぼ生に近い。
さすがにおかしい。
もう一度、店員を呼ぶ。
「これも、ちょっと…」
言い切る前に、店員の顔が少し曇った。
「火は通ってますけど」
一瞬、言葉が止まった。
「いや、でもこれ…中、かなり生っぽいですよね?」
店員はため息をついた。
あからさまに、面倒くさそうに。
「うち、こういう焼き方なんで」
——は?
思わず聞き返しそうになった。
でも、店員はさらに続けた。
「そんなに気になるなら、別に食べなくてもいいですけど」
そして、最後に一言。
「不満なら、帰ってもらってもいいですよ」
その瞬間、頭の中で何かが切り替わった。
ああ、そういう対応なんだ。
謝る気も、改善する気もない。
むしろ、こっちを“面倒な客”扱いして終わらせるつもりなんだ。
だったら——
こっちもやり方を変える。
私はそれ以上、何も言わなかった。
「分かりました」とだけ言って、
皿をそのままにした。
代わりに、スマホを取り出す。
餃子の断面を撮る。
1皿目と、2皿目。
温度が分かるように、割った状態も。
店内の雰囲気も、時間も、全部記録した。
会計は普通に済ませた。
店員は最後まで、何も言わなかった。
外に出た時、正直、少しだけ迷った。
ここで終わらせるか。
それとも、出すか。
でも、あの一言が頭から離れなかった。
「嫌なら帰れ」
——じゃあ、その通りにする。
私はその場で投稿した。
写真と、経緯をそのまま。
余計な感情は入れず、事実だけを書いた。
「2回連続でこの状態でした」
「店員の対応はこうでした」
それだけ。
投稿して、スマホを閉じた。
その時点では、何も起きていなかった。
ただの一投稿。
でも——
数時間後、通知が止まらなくなった。
いいね、リポスト、コメント。
一気に広がっていく。
「これはやばい」
「普通に食中毒レベル」
「店の対応ひどすぎ」
あっという間に、状況が変わった。
さらに翌日。
店側が反応した。
最初は否定だった。
「火は通っている」
「誤解がある」
でも、その後すぐに、別の発表が出た。
「調理器具に不具合がありました」
「ご迷惑をおかけしました」
——ああ、そういうことか。
つまり、分かってたのに出してたんだ。
そして、客にはあの態度。
正直、少し笑ってしまった。
あの時、店内で何を言っても、変わらなかった。
でも、
一歩外に出して、記録を出した瞬間、
全部が動いた。
もちろん、コメントは割れていた。
「晒すのはやりすぎ」
「店もかわいそう」
そういう声もあった。
でも同時に、
「これは出して正解」
「言わなきゃ続いてた」
という声も多かった。
正直、自分でも分からない。
あそこまでやる必要があったのか。
店内で終わらせる選択もあったと思う。
でも、
あのまま黙って帰ってたら、
同じものを、次の客が食べてたかもしれない。
そう考えると、
あの選択が間違いだったとも言い切れない。
ただ一つ言えるのは、
“記録を残した瞬間に、力関係が変わった”ってこと。
言い合いじゃなくて、
証拠でひっくり返った。
こういう時って、
どこまでやるのが正解なんだろう。
店のために黙るべきか。
それとも、
同じ被害を防ぐために出すべきか。
これって、
クレーム入れすぎ?それとも当然?
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