家の前まで来た配達員に、
「おっぱいデカくて前から気になってた」
って言われた。
最初、何を言われたのか分からなかった。
一瞬、思考が止まる。
でも——
すぐに違和感が恐怖に変わった。
距離が近い。
普通じゃない距離。
しかも、帰らない。
荷物はもう渡しているのに、
そのまま立っている。
「LINE教えてよ」
軽い口調で、何度も言ってくる。
断った。
はっきりと。
でも、それでも帰らない。
むしろ少し笑って、
「いいじゃん、それくらい」
と続ける。
……いや、よくない。
でも、その時に分かった。
ここで強く出たら、危ない。
そういうタイプだと。
私は一度、呼吸を整えた。
ドアの内側。
でも、完全に安心できる距離じゃない。
だから私は、
何も言い返さなかった。
「今ちょっと忙しいので」
それだけ言って、
ドアを閉めた。
カチャッ、と鍵をかける音。
その瞬間、
やっと少しだけ息ができた。
でも、完全には安心できない。
外にまだいるかもしれない。
しばらく動けなかった。
耳を澄ませる。
足音が離れていくのを確認して、
ようやく体の力が抜けた。
そこで初めて、
手が震えていることに気づいた。
でも——
ここで終わらせるつもりはなかった。
私はスマホを取り出した。
配達履歴を開く。
名前、会社、時間。
全部確認する。
そしてそのまま、
カスタマーサポートに連絡した。
できるだけ冷静に、
淡々と伝える。
「配達員の方が自宅前で連絡先を求めてきて、帰ってくれませんでした」
「かなり怖かったので、記録として残していただけますか」
相手はすぐに謝罪した。
「詳細を確認させていただきます」と言われた。
それでも、私はそれで終わらせなかった。
続けて、110に電話した。
「今はもういませんが、自宅前でしつこく声をかけられて怖かったです」
声は少し震えていたと思う。
でも、それでよかった。
事実を伝えた。
それだけだった。
電話を切ったあと、
やっと現実に戻った感じがした。
怖かった。
正直、すごく怖かった。
でも同時に、
あの時、無理に強く出なくてよかったとも思った。
もしあの場で言い返していたら、
何が起きていたか分からない。
数時間後、
サポートから連絡が来た。
「該当の配達員については事実確認を行い、対応いたします」
具体的な内容は言われなかった。
でも、それで十分だった。
少なくとも、
何もなかったことにはならない。
それだけでよかった。
あの日以来、
同じ人が来ることはない。
たぶん——
あの時、ちゃんと動いたからだと思う。
怖いときは、
無理に戦わなくていい。
でも、
何もせずに終わらせる必要もない。
あの時の自分の判断は、
間違っていなかったと思っている。
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