「グリーン車で、前の席の男がフルリクライニングして、そのまま靴のまま私の席に足を乗せてきた。」
しかも大声で電話してる。
距離、近すぎる。
逃げ場、ゼロ。
正直、ありえないと思った。
最初は何も言わなかった。
でも——
そのまま座席を戻して、軽く揺らした。
わざと。
次の瞬間、男が振り返ってきた。
「何してんだよ!」
そのままキレて、
「車掌呼ぶぞ!」と怒鳴る。
……は?
私はスマホを取り出して、さっきの写真を見せた。
「どうぞ、呼んでください」
「ちょうどいいです。私も呼ぼうと思ってたので」
そして、小さく言った。
「その状態で、よく言えますね」
その一言で、空気が止まった。
さっきまで怒鳴っていた男が、
一瞬だけ黙った。
表情が変わる。
ほんの一瞬だったけど、
確実に動揺していた。
でもすぐに、
取り繕うように舌打ちして言った。
「は? 何それ」
「お前がやってんだろ」
強気なままだった。
ただ、
さっきより声が少し小さくなっていた。
私は何も言わなかった。
スマホをそのまま持って、
画面を軽く傾けた。
さっき撮った写真。
靴を履いたまま、
私の席に足を乗せている状態が、
はっきり写っている。
男の視線がそこに落ちた。
そして——
完全に止まった。
数秒の沈黙。
その間に、
周りの空気も変わっていた。
向かいの席の人が、
ちらっとこちらを見る。
通路側の人も、
明らかに状況を理解している顔だった。
さっきまで、
この空間は「見て見ぬふり」だった。
でも今は違う。
“どっちがおかしいか”
全員が分かっている空気だった。
男は一度口を開きかけて、
何も言わずに閉じた。
そして、
ゆっくり足を下ろした。
さっきまであれだけ堂々としていたのに。
そのまま座り直す。
もうこちらを見ない。
車掌は呼ばれなかった。
あの「呼ぶぞ」は、
ただの強がりだったらしい。
私はスマホを閉じた。
何も言わなかった。
それ以上やる必要もなかった。
車内は、
また静かに戻った。
でも、
さっきまでとは少し違っていた。
正直、
最初から普通に座ってくれていれば、
何も起きなかったと思う。
グリーン車でも、
マナーはグレードアップしないらしい。
そして思った。
強く出てくる人ほど、
引くときは一瞬なんだな。
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