正直、あの時までは何も疑っていませんでした。
その店は、昔からの知り合いがやっている店です。
だからこそ、安心していました。
忙しそうな時は、自分から声をかけて手伝うこともありました。
接客も、箱運びも。
頼まれたわけじゃなくても、
「大変そうだな」と思ったら自然に体が動いていました。
それが普通だと思っていました。
その日も、友達と一緒に店に寄っただけでした。
いちごを買って、少し話して、帰る。
ただそれだけのつもりでした。
でも店に入った瞬間、いつも通り声をかけられました。
「ちょっと手伝ってくれる?」
軽い感じでした。
知り合いだし、断りづらい。
少しくらいならいいかと思って、そのまま手伝いました。
袋詰めをしたり、箱を運んだり。
気づけば、普通に“店の人”みたいに動いていました。
その間、他のお客さんが来ると――
店主はすごく丁寧に対応していました。
「ありがとうございます」
「こちら新鮮ですよ」
笑顔で、ちゃんと接客している。
でも、私には――
「それ、そこ置いといて」
「こっちもやっといて」
そんな感じでした。
違和感は、少しありました。
でも、知り合いだし。
そう思って、その場では気にしないようにしていました。
そして帰る時、いちごを一パック買いました。
値段も特に気にせず、そのまま支払いました。
それで終わるはずでした。
でも――
帰り道で、友達が何気なく言ったんです。
「さっきのいちご、安かったね」
私は一瞬、引っかかりました。
安かった?
私はそんな印象なかった。
「いくらだった?」
そう聞いて、レシートを見せてもらいました。
その瞬間、手が止まりました。
同じ商品。
同じパック。
なのに――
値段が違う。
私の方が、明らかに高い。
頭が追いつきませんでした。
なんで?
しかも私は、その前に手伝っている。
理由が分からないまま、私はそのまま店に戻りました。
責めるつもりはありませんでした。
ただ、ちゃんと知りたかっただけです。
「これ、同じ商品ですよね?」
レシートを見せながら、そう聞きました。
店主は一瞬だけ止まりました。
そして、こう言いました。
「それくらいで、いちいち気にする?」
その一言でした。
その瞬間、全部分かった気がしました。
ああ、そういうことか。
私は“知り合い”じゃなかった。
ただの、“都合のいい客”だった。
だったら――
私は静かに言いました。
「じゃあ、この分、全部返してください。いりません。」
一瞬、空気が止まりました。
店主は少し驚いた顔をして、すぐに表情を変えました。
「いやいや、そんなつもりじゃなくて…」
「ちょっとした違いだからさ」
さっきまでの態度とは、明らかに違いました。
言い方も柔らかくなっている。
「じゃあ、同じ値段にするから」
「今から直すからさ」
まるで、なかったことにしようとするように。
でも、その時点で、もう遅いと思いました。
私はもう一度言いました。
「大丈夫です。全部返してください。」
店主はまだ何か言おうとしていました。
「また来てくれれば――」
「次はちゃんと――」
でも、私はもうそれ以上聞きませんでした。
お金を受け取って、そのまま店を出ました。
振り返りませんでした。
正直、スッキリしました。
怒鳴ったわけでもない。
揉めたわけでもない。
でも、ちゃんと線は引けたと思いました。
その後、私はその店には行っていません。
しばらくして、その店は閉まっていました。
理由は分かりません。
でも私は――
もう二度と行こうとは思いませんでした。
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