「辛すぎるんだけど!!味おかしいだろこれ!!」
——は?
いきなり怒鳴られて、思考が一瞬止まった。
都内の店、夜のピーク。
注文も重なって、正直かなりバタついてた。
その中で呼ばれて行ったらこれ。
男性客グループ。
一人が完全にキレてる。
「ちゃんと作ってんのか!?」
声デカいし、周りも一瞬こっち見る。
正直、ちょっと怖かった。
こういうタイプ、経験上めんどくさい。
でもまずは対応。
「申し訳ありません、すぐ確認いたします」
そう言って料理を下げようとした、その瞬間。
横にいた男が笑いながら言った。
「いやこいつトイレ行ってる間に醤油ぶち込んだんだよw」
——は?
手、止まった。
今、何て言った?
一瞬、空気がズレた。
でも。
怒鳴ってた本人は、まるで聞こえてないみたいな顔で、
ジョッキを口に当てて、グイッと一気に飲み干してる。
いやいやいや。
おかしいだろ。
自分で味変えて、店にキレてるの?
しかもそのまま普通に飲んでるって何?
正直、この瞬間イラッとした。
でも同時に思った。
——これ、ここで謝ったら終わる。
完全にこっちのミスになる。
私は一回、息整えた。
で、あえてその場に戻した。
「少し、状況を確認させてください」
トーンは落ち着いたまま。
でも、引かない。
男、舌打ち。
「いいから早く替えろよ」
いや、替えない。
順番がある。
「辛すぎる、ということは」
一拍置いて。
「元の味は問題なかった、という認識でよろしいですか?」
男、ちょっと詰まる。
「……まぁ、そうだな」
よし。
「その間に、お席で味を変えられた方はいらっしゃいますか?」
一瞬、沈黙。
さっき笑ってた男、口開きかけて止まる。
別のやつが小声で「さっき言ってたじゃん…」ってボソッと。
テーブルの空気、一気に止まった。
怒鳴ってた本人、顔が固まる。
“自分たちでバラした”状態。
逃げ場、なくなった。
私はそのまま淡々と続けた。
「お客様側で味を変更された場合は」
視線だけ軽く全体に回して。
「こちらでの不備としてのご対応はできかねます」
静かに。
でも、完全に線を引いた。
「は?どういう意味だよ」
さっきよりトーン低い。
勢い、落ちてる。
「簡単に申し上げますと」
「こちらの責任ではない、ということです」
また沈黙。
周りも、さっきの笑いが嘘みたいに静か。
怒鳴ってた男、目泳いでる。
横のやつ、小さく笑いこらえてる。
完全に立場逆転。
さっきまで“攻める側”だったのが、一気に“説明される側”に落ちた。
「……でも辛いのは事実だろ」
出た、論点ずらし。
いやいや。
そこじゃない。
「その辛さの原因が」
一拍。
「どこにあるか、という話になります」
完全に詰み。
さっき醤油入れたやつ、目そらしてる。
怒鳴ってた男、もうこっち見ない。
ジョッキもさっきみたいに勢いよく飲めてない。
私は最後に一言だけ足した。
「味を変えられる場合は、その点だけご理解いただけますと幸いです」
強くない。
でも、逃げ道もない。
それで終わり。
「……いいよ、もう」
ボソッと。
声、小さくなってる。
料理、そのまま。
交換なし。
誰も文句言わない。
さっきのあの威圧感、完全に消えてた。
その後のテーブル、めちゃくちゃ静か。
さっきまで笑ってたのに。
正直、ちょっと思った。
——自分で入れた醤油でキレるって、何が面白いの?
でも言わない。
もう十分伝わってる。
ああいう人って、
怒鳴れば通ると思ってる。
でも。
ちゃんと整理されると、一番弱い。
あの日、正直ちょっと怖かった。
でも。
謝らなくてよかった。
流さなくてよかった。
あのまま受けてたら、
たぶん「店が悪い」で終わってた。
でも違う。
ちゃんと線引きした。
それだけ。
帰り際、あのテーブル。
最後まで誰もこっち見なかった。
まぁ、そりゃそうだよね。
自分で入れたものでキレてたんだから。
正直。
あの瞬間の空気、かなりスッとした。
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