昼のピークが終わったあと、店内に一枚の貼り紙を出した。
「配達パートナーの皆様へ」
できれば、こんな紙は出したくなかった。
お客様にも見える場所に、わざわざ注意文を置く。
店としても気持ちのいいものではない。
でも、出さざるを得なかった。
理由は簡単だ。
商品の盗難。
相次ぐクレーム。
そして、誰がどの商品を受け取ったのか分からなくなる混乱。
最初は、私たちも配達員を信用していた。
画面を見せてくれる。
注文番号を確認する。
商品を渡す。
「お願いします」
「行ってきます」
それで終わるはずだった。
でも、現実はそんなにきれいではなかった。
混雑した時間帯。
カウンター前には、配達員が何人も集まる。
スマホを片手に、無言で番号を見せてくる人。
急いでいるのか、袋を指さすだけの人。
「それです」と言って、こちらの返事を待たずに持っていこうとする人。
中には、注文番号すらきちんと確認せず、置いてある袋に手を伸ばす人もいた。
最初は注意で済ませていた。
「番号を確認させてください」
「受け取り確認をお願いします」
「画面を見せてください」
そのたびに、明らかに面倒くさそうな顔をされる。
こちらが悪いみたいな空気になる。
でも、面倒なのはこっちも同じだ。
ハンバーガー一個、ポテト一つでも、お客様から見れば大事な注文だ。
届かなければ店にクレームが来る。
冷めていれば店が怒られる。
中身が足りなければ店が謝る。
配達途中で何が起きても、最初に矢面に立つのはだいたい店だ。
ある日、決定的なことが起きた。
商品を渡したはずの注文が、届いていないと連絡が来た。
「配達員が受け取り済みになっているのに、商品が来ません」
画面上では完了。
でも、お客様は受け取っていない。
確認すると、店では商品を出している。
袋も消えている。
では、どこへ行ったのか。
空気が一瞬で重くなった。
別の日には、袋の状態がおかしいという連絡もあった。
封が甘い。
中身がずれている。
触られたように見える。
もちろん、全部が配達員のせいだと決めつけるつもりはない。
真面目に働いている人も多い。
雨の日も、暑い日も、走り回って届けてくれる人がいる。
そこには感謝している。
でも、一部の雑な人間のせいで、店も客も巻き込まれる。
そして、真面目な配達員まで同じ目で見られる。
それが一番腹立たしい。
だから、貼り紙を出した。
商品受け取りの際は、必ず従業員に声をかけること。
番号を照合すること。
画面を確認すること。
勝手に持っていかないこと。
たったそれだけの内容だ。
本来なら、わざわざ書くような話ではない。
でも、書かなければ守られないなら、書くしかない。
貼り紙を出した直後、何人かの配達員が不満そうに見た。
「信用してないってことですか?」
そんな顔だった。
そうです。
正直、もう無条件では信用できません。
信用は、積み上げるものだ。
店の棚に置いてある袋を、誰でも自由に持っていけるシステムにした結果、問題が起きた。
なら、次は確認する。
当たり前の話だ。
信用しているから確認しない、ではない。
確認するから信用できるのだ。
そこを勘違いしないでほしい。
お客様は、店の名前を見て注文している。
マックの商品として待っている。
配達アプリの向こうで、子どもがポテトを楽しみにしているかもしれない。
仕事の合間に、やっと昼ごはんを頼んだ人かもしれない。
それが途中で消える。
中身が怪しくなる。
届かない。
そんなことが続けば、怒られるのは当然だ。
そしてその怒りは、なぜか店にも来る。
「ちゃんと渡したんですか?」
「管理どうなってるんですか?」
「店が悪いんじゃないですか?」
言いたくなる。
こちらも被害者です、と。
でも、客にそんな言い訳をしても仕方ない。
だから、店側でできる対策をする。
番号を確認する。
画面を見る。
手渡しの瞬間を曖昧にしない。
それだけだ。
貼り紙一枚で、すべてが解決するとは思っていない。
でも、少なくとも「勝手に持っていける」と思われるよりはいい。
急いでいるのは分かる。
一件でも多く配りたいのも分かる。
でも、その数秒の確認を嫌がるなら、食品を運ぶ仕事に向いていない。
スピードより大事なものがある。
それは、ちゃんと届けることだ。
店のカウンターは、無料の受け取り放題コーナーではない。
商品は番号で管理されている。
袋にはお客様がいる。
そこを忘れた瞬間、ただの配達ではなく、ただの迷惑になる。
今日もまた、スマホを片手に配達員が来る。
私は袋を渡す前に言う。
「番号、確認させてください」
面倒そうな顔をされても、確認する。
ため息をつかれても、確認する。
こちらももう学んだ。
信用しすぎると、泣くのは店とお客様だ。
商品を盗む人より、確認を嫌がる人の方がよほど信用を削っている。
配達員の民度を舐めるな、ではない。
店の防衛本能を舐めるな。
一部の人のせいで貼り紙が必要になる世界、ほんと地味に最悪だ。