その日、私はただ1000円札がたくさん欲しかった。
理由は単純。
翌日に細かい現金が必要だったのに、財布の中には1万円札しかなかった。
ATMで崩してもよかったけれど、近くのコンビニに寄った私は、
「何か安いものを買えばいいか」
くらいの軽い気持ちだった。
そこで手に取ったのが、175円のお菓子。
我ながらセコい。
いや、かなりセコい。
でもその時の私は、
“175円払って、お釣りで1000円札を大量ゲット”
そのことしか考えていなかった。
完璧な作戦だと思っていた。
……この時点では。
レジに並ぶと、後ろには数人の列。
仕事帰りらしいスーツ姿の男性、スマホを見ながら並ぶ女性、
みんな早く済ませたい空気を出していた。
そして私の番。
商品を置いて、堂々と1万円札を差し出した。
店員さんの手が、ほんの一瞬止まった。
「……175円で、1万円札ですね」
その言い方は丁寧だった。
でも、“本気ですか?”という空気はしっかり伝わった。
その瞬間、後ろから小さな声が聞こえた。
「え、マジかよ……」
「こういう人いるよね」
「小銭ないの?」
心臓がドクンと鳴った。
私は一気に恥ずかしくなった。
たしかにそうだ。
175円の商品に1万円札なんて、どう見ても面倒な客だ。
しかも私はその日、近所に出るようなラフな格好。
髪も適当、メイクも薄い。
きっと余計に“だらしない人”に見えたのだと思う。
ああ、最悪。
早く終わってくれ。
そう思いながら財布を閉じようとした、その時だった。
中に見えた小銭ケース。
何気なく開く。
100円玉。
50円玉。
10円玉。
5円玉。
1円玉。
……え?
私は頭の中で一瞬計算した。
175円の商品。
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