夫の首から胸、背中にかけて、赤い発疹が一気に広がった日。
私は本気で、夫の命を心配していた。
熱っぽい。
だるい。
気持ち悪い。
そう言ってソファに横たわる夫を見て、私はすぐに救急へ連れて行った。
感染症?
急性アレルギー?
何か重い病気?
頭の中では、嫌な想像ばかりがぐるぐる回っていた。
待合室で、私はずっと落ち着かなかった。
夫の顔色を見ては不安になり、スマホを見るふりをしては、何度も祈った。
どうか、大したことありませんように。
どうか、治る病気でありますように。
そのときの私は、まだ知らなかった。
数時間後、心配していた相手が、私の人生で一番許せない人間になることを。
診察室に呼ばれ、医師が夫の症状を確認した。
首。
胸。
背中。
赤い発疹を見た医師の表情が、少しだけ硬くなった。
そして、静かに言った。
「これは、一般的な皮膚炎とは少し違います」
私は息を止めた。
医師は続けた。
「不潔な性的接触による感染症の可能性も考えられます」
その瞬間、頭が真っ白になった。
言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
不潔な性的接触?
誰が?
夫が?
私はゆっくり隣を見た。
夫は、私と目を合わせなかった。
その一瞬で、全部わかった。
この人は、病気になったんじゃない。
外で裏切って、そのリスクを家に持ち帰ってきたんだ。
しかも、黙ったまま。
何もなかった顔で、私の隣で寝ていた。
同じタオルを使い、同じ洗面所に立ち、同じ家で普通に暮らしていた。
私は震えた。
悲しみより先に、吐き気がきた。
診察室を出たあと、夫は小さな声で言った。
「ごめん……」
その一言で、私は完全に冷めた。
ごめん?
何に対して?
外で裏切ったこと?
病気を持ち帰ったこと?
それとも、私にバレたこと?
私は泣かなかった。
怒鳴りもしなかった。
ただ、静かに言った。
「今日から別室ね」
夫が顔を上げた。
私は続けた。
「タオルも、歯ブラシも、コップも、全部分ける」
「同じベッドでは寝ない」
「必要以上に近寄らないで」
夫は慌てて、
「そこまでしなくても……」
と言いかけた。
私はその言葉を遮った。
「そこまでさせたのは、あなたでしょ」
その夜、私は家中を片づけた。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください