手取り、208,652円。
私はその数字を見た瞬間、しばらく動けなかった。
夜勤もしている。
急変対応もしている。
命に関わる判断を、何度も何度もしている。
それなのに、振り込まれた金額はこれだった。
「……私たちの仕事って、こんなに軽いの?」
思わず、口から出た。
その日も私は夜勤明けだった。
足はむくみ、頭はぼんやりしていて、帰りの電車では立ったまま眠りそうになった。
夜中のナースコール。
認知症の患者さんの転倒リスク。
急に血圧が下がった患者さん。
泣きながら家族に電話する人。
「お願い、母を助けてください」と震える声。
その一つひとつを、私たちは受け止めている。
ミスは許されない。
でも、人手は足りない。
休憩は取れない。
記録は山ほどある。
残業は当たり前。
それでも上司はいつも同じことを言った。
「みんな頑張ってるから」
「病院も厳しいから」
「今は我慢して」
我慢。
その言葉を聞くたびに、私は心のどこかがすり減っていった。
ある夜、同僚の美咲が休憩室で泣いていた。
「もう無理かも。患者さんの前では笑ってるけど、家に帰ったら何もできない」
彼女の手には、私とほとんど同じ給与明細があった。
夜勤をして、残業して、責任を背負って。
それでも手取りは20万円少し。
私はそのとき、はっきり思った。
これは“頑張りが足りない”んじゃない。
これは“おかしいことを、おかしいと言えない空気”が問題なんだ。
翌月から、私は黙って記録を始めた。
出勤時間。
退勤時間。
実際に休憩を取れた時間。
サービス残業の時間。
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