バスに乗った瞬間、私は目の前の光景に言葉を失った。
扉が、開いたまま動かない。
いや、正確には――開いた扉が、隣に停まっていたトラックの前で完全に挟まっていたのだ。
外は雨。
路面は濡れていて、バス停には乗りたい人、降りたい人、そして状況が分からず立ち止まる人たちが集まっていた。
「え、これ……どうなってるの?」
誰かが小さくつぶやいた。
私も同じ気持ちだった。
普通にバスへ乗って、普通に目的地へ向かうはずだった。それなのに、目の前ではバスのドアがトラックに阻まれ、閉めることも開き切ることもできない状態になっていた。
車内には、すでに乗っていた乗客もいた。
高齢の女性が不安そうに外を見ている。
学生らしき人は時計を気にしている。
小さな子どもを連れた母親は、雨に濡れないように荷物を抱え直していた。
その時、運転手が苛立ったように言った。
「もう少し早く乗り降りしてもらわないと困るんですよ」
その一言で、車内の空気が変わった。
え?
今、それを私たちのせいにするの?
私は思わず運転手の方を見た。
たしかに乗客は戸惑っていた。
でも、誰もふざけて遅らせていたわけではない。むしろ、扉がこんな状態では、危なくてまともに乗り降りできない。
そもそも原因は明らかだった。
バス停のすぐ横に、配送トラックがありえない距離で寄せて停まっていた。
そのせいで、バスの扉が開いた瞬間、トラックの車体に近すぎて引っかかるような形になっていたのだ。
すると今度は、トラックの運転手が窓を開けて怒鳴った。
「そっちが勝手にドア開けたんだろ!」
バスの運転手も言い返す。
「こっちは停留所に停めてるんですよ。そっちが寄せすぎなんです」
二人は互いに責任を押しつけ始めた。
でも、その間も乗客は置き去りだった。
降りたい人は降りられない。
乗りたい人は雨の中で待たされる。
誰も状況を説明されず、ただ不安だけが広がっていく。
私はしばらく黙っていた。
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