入社初日、まだ自分のデスクの場所すら覚えていない私に、人事部から一枚の紙が渡された。
「社員勤務規則および入社注意事項」
そう書かれた書類を見た時、私は普通の社内ルールだと思った。
勤務時間中は業務に関係のないアプリを使わないこと。
私的なチャットや動画視聴、SNSの閲覧は控えること。
そこまでは分かる。
会社にいる時間なのだから、仕事に集中してほしいという話だろう。
けれど、読み進めるうちに、私の手が止まった。
そこには、注意対象となるアプリ名がずらりと並んでいた。
LINE。
Instagram。
TikTok。
ChatGPT。
さらに、業務中の私的利用だけでなく、深夜0時以降に特定のアプリへ長時間接続している場合、勤務状態や生活管理能力を再確認することがある、とまで書かれていた。
私は思わず二度見した。
え、下班後のスマホまで会社が見るの?
まだ入社初日だ。
社員証を受け取ったばかりで、社内のコピー機の場所すら分からない。
それなのに、会社はもう私の仕事だけでなく、夜中に誰と連絡を取るか、どんなアプリを使うか、何時まで起きているかまで気にするつもりらしい。
さらに読み進めると、もっと違和感のある文言が出てきた。
会社Wi-Fiを使用した私的アプリのログイン確認。
ライブ配信の視聴。
匿名チャットの利用。
私的な異性との交流。
私はそこで完全に固まった。
これは勤務規則なのか。
それとも生活指導のプリントなのか。
隣に座っていた同期の新人が、小声で言った。
「これ、ちょっと変じゃない?」
私も小さくうなずいた。
「変だよね。仕事中の話だけなら分かるけど、下班後まで書いてあるのはさすがに怖い」
すると別の同期が、慌てたように言った。
「でもさ、入ったばかりで波風立てない方がいいよ。会社のルールなら仕方ないんじゃない?」
たしかに、普通ならそう思うかもしれない。
新人は弱い。
まだ評価もない。
上司の性格も分からない。
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